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おから

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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おから
おから、生[1]
100 gあたりの栄養価
エネルギー 464 kJ (111 kcal)
13.8 g
食物繊維 11.5 g
3.6 g
6.1 g
ビタミン
チアミン (B1)
(10%)
0.11 mg
リボフラビン (B2)
(3%)
0.03 mg
ナイアシン (B3)
(1%)
0.2 mg
パントテン酸 (B5)
(6%)
0.31 mg
ビタミンB6
(5%)
0.06 mg
葉酸 (B9)
(4%)
14 µg
ビタミンE
(3%)
0.4 mg
ビタミンK
(8%)
8 µg
ミネラル
ナトリウム
(0%)
5 mg
カリウム
(7%)
350 mg
カルシウム
(8%)
81 mg
マグネシウム
(11%)
40 mg
リン
(14%)
99 mg
鉄分
(10%)
1.3 mg
亜鉛
(6%)
0.6 mg
(7%)
0.14 mg
マンガン
(19%)
0.40 mg
セレン
(1%)
1 µg
他の成分
水分 75.5 g
水溶性食物繊維 0.4 g
不溶性食物繊維 11.1 g
ビオチン(B7 4.1 µg

ビタミンEはα─トコフェロールのみを示した[2]
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。

おから大豆から豆腐を製造する過程で、豆乳を絞った際の搾りかす。日本中国韓国など、豆腐が存在する東アジア一帯ではなじみ深い食品である。食物繊維を多く含み、火を通して食べることが多い。

概要

大豆から豆乳を搾った後の廃物であるところから、値段はごく安価で庶民的な食品である。場合によっては豆腐屋が無料で分け与えたり、捨てたりすることが、古く江戸時代からあった。現在では食品としての需要が供給を大きく下回り、また品質の劣化が早く日持ちがしないため、家畜の飼料として一部を活用するか、脱水して保存性を高めて供給される他は、ほとんどが廃棄されている。

名称

「おから」は絞りかすの意味。茶殻の「がら」などと同源の「から」に丁寧語の「御」をつけたもので、女房言葉のひとつ。

「から」の語は空(から)に通じるとして忌避され、縁起を担いで様々な呼び名に言い換えされる。白いことから卯の花(うのはな、主に関東)、包丁で切らずに食べられるところから雪花菜(きらず、主に関西東北)などと呼ばれる。「おから」自体も「雪花菜」の字をあてる。寄席芸人の世界でも「おから」が空の客席を連想させるとして嫌われ、炒り付けるように料理することから「おおいり」(大入り) と言い換えていた。

中国語では「豆渣」(トウジャー、dòuzhā)または「豆腐渣」(トウフジャー、dòufuzhā)[3]韓国語では「비지」(ピジ)と呼び、精進料理や家庭料理の材料にする。

栄養

豆乳を搾った後の残渣物だが、栄養的には優れている。一般分析値を見れば、乾物中の成分は粗蛋白質が約26%、粗脂肪は約13%、可溶無窒素物が約33%、粗繊維が約15%と栄養価が非常に高い。通常は水分を約75%から80%含む状態で流通している。含まれている粗脂肪(油分)の約50%は不飽和脂肪酸のリノール酸である。また、おからには脳の記憶力を高めるホスファチジルコリン(レシチンとも)が豊富に含まれている。記憶に関連した脳内物質としてアセチルコリンがある。アセチルコリンを作るにはコリンという物質が欠かせない。その前駆物質がホスファチジルコリンであり、ネズミにコリンを与えたところ、記憶力が良くなったという報告もある。

調理法

  • 卯の花 - 油揚げ椎茸にんじんなどの材料も使用し、出汁調味料で炒ってから甘めに煮付けるのが最も一般的な調理法。そのため、炒り卯の花、または単に卯の花と呼ばれることが多い。おから自体の甘みと相俟って独特の風味がある。
  • 豆腐ハンバーグのように、揚げ物や肉詰めなどの料理に、肉の代わりとして用いることもある。水分をよく切るのがコツ。カロリーを抑える効果がある。
  • 近年は食物繊維が豊富な食材として、ケーキクッキーなどにも利用されている。ホットケーキミックスに混ぜて焼くだけでも、独特の触感が味わえる。
  • 鯛の唐蒸し - 石川県金沢市では、背から切れ目を入れたにおからを詰め、蒸した鯛を2匹腹合わせに盛りつけた料理が結婚披露宴で振る舞われる。高知県中部にも、の腹におからを詰め、蒸し物にする独特の郷土料理がある。
  • 卯の花汁 - サケブリニシンなどの塩蔵魚、特に頭やアラを利用するのが美味い。鍋にたっぷりの水を入れ、塩魚を適宜に切って最初から入れ、中火にかけて気長に煮出し、ダイコン、ニンジンを半月形またはイチョウ形に薄く切ったものと、コンニャクを適宜むしり込み、油揚げを刻んで加え、煮えたころ、ねぎの五分切りを入れ、卯の花をドロドロになるくらい加える[4]。魚の塩味だけで薄ければ食塩を加え、また適宜、酒を加える。味噌を加えることもある。薬味には青のり、こしょう、七味蕃椒など。
  • 卯の花鮨 - 卯の花を煮出汁、みりんで調味し、鶏卵白身を加え、絶えずかき混ぜながら炒りつけ、少量のを合わせてよく冷やす[4]。別にイワシ、小あじ、コハダなどを普通の寿司だねのように作り、塩を振りかけて酢につけ、肉が白くはぜるころ引き上げて酢を切り、卯の花を普通の握り鮨のように握り、上に酢魚をつけ、刻みしょうがなどを添える。広島県岡山県あずまずし愛媛県丸ずし新潟県から寿司など。
  • 大分県臼杵市ではきらすまめしという、醤油漬けの魚を和えた郷土料理がある。
  • 卯の花膾 - サワラヒラメスズキアジサバなど好みの魚を刺身ほどに切ってかぶるくらいの酢につけ、塩を少々くわえ、はぜて白くなったら引き上げ、残り酢を酒または味醂砂糖などで調味し、卯の花はまず空炒りして水分を除き、砂糖で下味をつけ、火から下ろしてよく冷やしたところへ調味酢を合わせ、魚をその中にしのばせる[4]の実を炒って混ぜると、香ばしい。小鉢に盛って刻み生姜を乗せる。
  • 卯の花飯 - 卯の花を煮出汁、酒、砂糖、塩などで好みの味に炒り、酢を加えてご飯の上に乗せ、刻み生姜を添える[4]。炒り卵、炒麻の実などを加えることもある。
  • 富山県などではおからをそのまま使い、油揚げやネギを入れて味噌汁することがあり、「ごーじる」と呼んだが、「呉汁」を簡易にしたものと考えられる。
  • 埼玉県行田市にはゼリーフライという、おからと茹でたジャガイモをベースに、ニンジンやネギなどの野菜を加え、コロッケのようにまとめて素揚げした郷土料理がある。

再利用など

通常、おからは産業廃棄物として処理される。全国民が15gずつ毎日食べれば廃棄物にならないともいわれるが、現状では上記の理由などから多くが廃棄物となってしまう。2008年の報告では処理費用は \8 - 15/kg[5]。排出から再利用までの時間で腐敗してしまう事が問題となるが、乳酸菌を混合することで腐敗を遅らせることが可能である[6]

そのため、土壌用のボカシ肥家畜飼料として利用されてきたが、近年では、おからの再利用について様々な研究がされている。

シリアル食品への利用や[7]バイオ燃料(木質ペレットやエタノール)への再利用技術の研究も行われている[8]

大手タイルトイレメーカーのINAXは、おから乾燥機「オカラット」を使用した再生技術を開発した。おからを瞬時に乾燥させることで、日持ちのする飼料として販売できるようにした。既に15台以上の「オカラット」を納入している[9]

成分を取り出して基礎化粧品の開発に成功した例[10]発泡スチロール様の緩衝材の原料[11]、乾燥おからを使った猫砂などの実用例もある。

大豆の代わりにおからを原料として味噌を作成した例もあり、熟成期間が10日間に短縮され、エタノール含量が多く、エステル香が強く、グルタミン酸含量が少なく旨味が乏しかったとの報告がある[12]。乾燥おからを使用した場合には、大豆原料の1.3倍、生おからの1.8倍のグルタミン酸含有を得たとのことである[13]

逸話

  • 荻生徂徠が若い頃、あまりに貧しいため、近くの豆腐屋からおからを分けてもらい、飢えをしのいだといわれる。講談落語の有名な演目のひとつ(「徂徠豆腐」)である。また、泉鏡花も貧乏時代にはおからで食いつないでいた。
  • 落語の「千早振る」には、知ったかぶりの隠居が在原業平の歌の意味を聞かれて、「唐紅」(からくれない)を「おからをくれない」とする珍解釈を語る場面がある。
  • 同じく落語鹿政談」では、豆腐屋が軒先に出しておいたおからを、飢えた鹿が食べてしまうところから話がはじまる。「千早振る」とあわせて、おからがほとんど廃物同然だったことがわかる。「「きらず」にやるぞ」と落とすところは関西風。
  • うな重の起源は蒲焼が冷めないよう、熱したおからを敷いた重箱に鰻を乗せて出前したことにはじまるという説がある。
  • 職人の小野二郎は、修行時代におからを自腹で購入し、休憩時間にシャリの握りの練習に用いたというエピソードが『プロフェッショナル 仕事の流儀』にて紹介された。
  • 能舞台や所作板は滑りを良くし、つやを出すためにおからで乾拭きをする。
  • 中国語では、手抜き工事を「おから工事」(「豆腐渣工程」(トウフジャーコンチョン dòufuzhā gōngchéng))と表現する[15]
  • 近衛十四郎主演の時代劇『素浪人 花山大吉』にて、近衛演じる主人公、花山大吉の大好物としておからが登場する。作中で花山大吉はおからを酒の肴として病的なほどに食しており、68人前のおからを平らげたこともあった。

参考画像

脚注

  1. ^ 文部科学省 「日本食品標準成分表2015年版(七訂)
  2. ^ 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2015年版)
  3. ^ 『中日辞典 第二版』小学館、2003年、366頁。ISBN 4095156023 
  4. ^ a b c d 本山荻舟『飲食事典』平凡社、1958年12月25日、61-62頁。ISBN 9784582107012 
  5. ^ 胡柏、食品加工残さの燃料ペレット事業化の経済条件に関する一考察 農林業問題研究 2008年 44巻 1号 p.61-66, doi: 10.7310/arfe1965.44.61
  6. ^ 日渡美世、加納早緒里、加藤丈雄、乳酸発酵によるオカラの腐敗防止方法の開発 日本食品科学工学会誌 2015年 62巻 12号 p.572-578, doi:10.3136/nskkk.62.572
  7. ^ 柴田(石渡) 奈緒美、川口恵美、安藤祥充 ほか、生おからを主原料とした加工食品の開発 日本調理科学会誌 2016年 49巻 6号 p.355-361, doi:10.11402/cookeryscience.49.355
  8. ^ 山崎昌典、バイオマス発電の動向 電気設備学会誌 2007年 27巻 8号 p.639-644, doi:10.14936/ieiej.27.639
  9. ^ オカラ再生利用事業”. INAX. 2005年11月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年4月4日閲覧。
  10. ^ 経営学部 追手門学院大学”. 追手門学院大学. 2006年7月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年4月4日閲覧。
  11. ^ 宮城県産業技術総合センター (2002年4月). “特許のご紹介”. 2014年2月26日閲覧。
  12. ^ おからの利用に関する研究 : その 1 おから味噌について”. 2014年2月26日閲覧。, NAID 110001160723
  13. ^ おからの利用に関する研究 : その 2. 味噌製造におけるおからの乾燥効果”. 2014年2月26日閲覧。, NAID 110001160761
  14. ^ おからを原料とした納豆菌による生分解性プラスチック素材:ポリγ-グルタミン酸の製造法の開発
  15. ^ 陳惠運わが祖国、中国の悲惨な真実』飛鳥新社、2006年9月3日、118頁。ISBN 9784870317475全国書誌番号:21218508http://books.google.co.jp/books?id=W-Emvxykk-QC&pg=PA118 

外部リンク