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もののけ姫

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もののけ姫』(もののけひめ

  1. 1980年、1993年に宮崎駿がアニメ企画案のイメージボードとして出版した絵本。内容は『美女と野獣』と同じ異類婚姻譚にはじまる冒険であった。ISBN 4198600406
  2. 宮崎駿監督によるスタジオジブリ長編アニメーション映画作品。1997年7月12日公開。本稿で詳述する。

アニメ映画『もののけ姫』

「もののけ」と呼ばれる山のたちや山神と、人間との抗争を通し、をテーマにして描かれている。

モロの君の「黙れ小僧!お前にサンが救えるか?」という台詞は「オーラの泉」(テレビ朝日)が開始するまでは美輪明宏モノマネとしてよく用いられ、この作品を語る上で、欠かせない名台詞となった。


注意:以降の記述には物語・作品・登場人物に関するネタバレが含まれます。免責事項もお読みください。


 

あらすじ

かつて(物語の時点から500有余年前)大和朝廷に滅ぼされた蝦夷豪族の末裔である少年アシタカは、突然現れた「祟り神」にかけられた呪いを解くため、遠く西方にあると言う神々の住む山を目指して旅立つ。そこで彼が見たものは、森を破壊しながら必死に生きるタタラ製鉄集団と、人語を解する獣達~荒ぶる神々~「もののけ」、そして山犬(狼)と共に生きる少女サン(もののけ姫・山犬の姫)であった。やがて山を守ろうとする神々と、神々の神である「獣神」(シシガミ)を倒そうとする人間達の壮絶な戦いが始まる。人間達の軍隊は長年かかって備えてきた石火矢鉄砲で、数において勝る神々を打ち破っていく。首を討ち取られた獣神はディダラボッチとなり、世界が崩壊していく。

キャッチコピー

生きろ。(糸井重里

設定

時代背景
室町時代後期。蝦夷の老人から大和の王=天皇将軍に力が既にない事が語られており、また方々で小規模な小競り合いが行われているところから、かなり戦国期に近い時代、もしくは戦国期前期と思われる。一方、兵農分離が進み合戦が大規模化する一方、身分が固定し社会が安定した戦国後期のような状況にはなく、有力農民=地侍、宗教集団(師匠連)、たたら集等が各々独自に武装し争っている。
獣神の森
現在の日本列島を覆う森林は、江戸期以後人間の手によって作られた物である(同じジブリ作品である『おもひでぽろぽろ』や『平成狸合戦ぽんぽこ』でも言及されている)。人間の手の入っていない純粋に自然によって作られた森林は現在では白神山地などに僅かに残されるのみであり、いずれも世界遺産級の貴重さである。シシ神の森は日本の森林が人間の手が入っていなかった太古の姿を描いた物だと思われる。このような自然の森は、中世の終わりまでに事実上日本列島から消滅している。
シシ神が首を取られるという逸話はギルガメシュ叙事詩にモチーフを得たものという説もある。
もののけ・獣神
人の手の入らぬ森に対する人々の畏れ、そして物理的な自然の猛威を形にしたものと思われる。こうした森への畏れ、信仰は自然の森が日本から消滅していった時代、急速に失われていった。神殺しとはそれを象徴的に描写した物と思われる。
たたら場
現代の山陰地方の山奥で木炭と砂鉄から鉄を作る集落。砂鉄を取る為には山を崩し、木炭を作る為には大量の樹木を伐採する必要があるため、生活のために森林を破壊せざるをえない。作中のエボシ製鉄集団はそのような事情から森を切り開き、森を守る神々と対決したものと思われる。たたら製鉄に関しては島根県安来市の和鋼博物館の展示物が最も充実している。
石火矢
中国大陸から渡来したと思われる原始的な銃火器。世界で最初に火薬を発明した中国人は早い段階から火薬を利用した兵器を発明しており、作中の石火矢はこれが日本にも渡来したものと考えられる。一般には日本で鉄砲が使われ始めたのは戦国期以降とされ、室町時代と設定されている本作の時代に鉄砲は存在しないとされている。しかし火縄銃の戦国期の普及速度は世界でも例を見ないほど凄まじかったとされ、火縄銃に先行する形で何らかの銃器があったとしても不思議はない、との仮説に基づく。作中の石火矢はそれを根拠としていると思われる。
蝦夷
古代東日本に暮らし、大和朝廷の支配に抵抗した民族。縄文人の直系の子孫とされ(大和は大陸からの渡来人ないしその影響を受けた人々が権力の中枢を担っていた)、村長の祭事を行う際の衣装や、北東北のマタギにも似たアシタカの衣装などから、北海道のアイヌと関係が深い人々を想定していると思われる。作中では東北地方の山奥に潜み、和人の目を逃れてひっそりと暮らしているものと思われる。
ヤックル(アカシシ)
アシタカが駆る架空の家畜チベット高原で飼われているヤクがベースと思われるが、健脚も併せ持っている。『シュナの旅』にも登場している。

スタッフ・キャスト

アシタカ(アシタカ彦):松田洋治/ビリー・クラダップ(英語版)
大和朝廷との争いに敗れ、北の地に隠れ住むエミシ一族の唯一の若者。若い男が彼以外に里に居らず、いずれは長となる予定だったが、タタリ神と化したナゴの神の襲撃により村を守り、死の呪いをかけられる。そして自身にかけられた呪いの謎を解くため西国へ旅立つ。寡黙で正義感が強いが、世間知らずな一面もある。呪われた腕は彼の命を蝕む反面、戦いにおいては驚異的な怪力を発揮する。名前の由来は、日本神話に登場するナガスネヒコと言われている。
サン:石田ゆり子/クレア・デーンズ(英語版)
人間であるが山犬であるモロの君に育てられた少女。かつて生まれて間もないころに、山犬の魔手から逃れるために、生贄として人間がモロに投げてよこした。あくまで山犬の一族としての自覚と誇りを持っており、シシ神の森を破壊しようとするエボシ御前を始めとする人間たちを憎んでいる。カヤがアシタカに渡した小刀は、最終的に彼女の首飾りになる。自身の考えよりもシシ神や乙事主の意見を尊重する忠実さも持つ。
エボシ御前:田中裕子/ミニー・ドライヴァー(英語版)
タタラ場のすべてを取り仕切っている女棟梁。製鉄に必要な木材を確保して、自分達の生活を守るためにシシ神の森を破壊しシシ神の首をとることに躍起になっている。敵に対しては徹底的な非情さを持っているが、売られた女を買い取って本来女人禁制のタタラ場で女に仕事を与えている、皮膚病(恐らくはハンセン病)に冒された人々の世話をする等人徳があり男女を問わず慕われている。
ジコ坊:小林薫/ビリー・ボブ・ソーントン(英語版)
謎の組織である師匠連からの使者。エボシ御前に対し、タタラ場の村一帯や森の正式な統治を認めることを条件に彼女たちをシシ神退治に利用しようと考えている。組織を介せば天皇にも通じる権限を持っている。石火矢衆、唐傘連、ジバシリの頭でもある。
モロの君:美輪明宏/ジリアン・アンダーソン(英語版)
人語を解する齢300の雌の山犬神。サンの育ての親。森を汚すエボシ御前をとても憎んでいる。しかしサンに真心を持って接するアシタカには理解を示している。
乙事主:森繁久彌/キース・デヴィッド(英語版)
人語を解する鎮西(九州)の猪神。盲目で、齢500の最長老。エボシ御前が森を焼き仲間のナゴの神をタタリ神にしたことを憎んでおり、一族総出でシシ神様の森を守るため海を渡ってやって来た。モロの一族とは対立しているが、森を侵す人間を憎んでいる点では一致している。一族が皆小型化し人語が理解できなくなっている状況に焦りを感じている。敗走中タタリ神に化しそうになるが、シシ神が彼の命を奪ったお陰で免れる。
カヤ:石田ゆり子/クレア・デーンズ(英語版)(二役)
アシタカの里の娘。彼の許婚でもある。彼が旅に出る際お守りとして、仕置きは覚悟の上で手製の玉の小刀を渡した。
甲六:西村雅彦/ジョン・デミータ(英語版)
米を運んでタタラ場に戻る途中モロ一党に襲われ、河に落ちて負傷する。そこを偶然通りがかったアシタカに助けられ、運良くタタラ場に帰ることができた。
ゴンザ:上條恒彦/ジョン・ディマジオ(英語版)
エボシの部下。もののけ、余所者といった自身に理解できない事に否定的。エボシには忠実。生真面目な性格故にアシタカやサンに振り回されがち。
トキ:島本須美/ジェイダ・ピンケット・スミス(英語版)
甲六の女房。威勢の良いタタラ場の女たちのリーダー的存在。エボシにも気さくに話しかけ、もののけにも物怖じしない強さを持つ。
山犬:渡辺哲
サンの兄弟でモロの子供たち。戦闘時にはサンを背に乗せて走る。
ヒイさま:森光子
アシタカの村に住む老巫女。アシタカの呪いと行く末を占い、アシタカに道を示す。
ナゴの神:佐藤允
乙事主の一族の者で、タタラ場近辺の山の主でもあった。エボシに撃たれ、自分が守る山を切り開かれるという災難に見舞われてタタリ神化して東北へ逃げた。アシタカを呪った張本人。
牛飼いの長:名古屋章
甲六の上司にあたる。アシタカを“旦那”と呼び、牛飼いたちを纏める統率力も持つ。
病者の長:飯沼彗
タタラ場の外れにある庭で石火矢を造る皮膚病患者たちの長。かつてアシタカ同様に呪いを受け、更には病も全身に回っている為余命幾許もない老人。激情と呪いの力に駆られてエボシを殺そうとするアシタカを諌める。
キヨ:香月弥生
タタラ場の女たちの一人。エボシに当て身を食らわせたアシタカに銃口を向けるが思い切れず、野次馬に止められた拍子に石火矢を誤射してしまい、アシタカに重傷を負わせる。
ジバシリ:冷泉公裕
ジコ坊の部下。山に詳しく、デイダラボッチの姿におぞましさを感じていた。
牛飼い:近藤芳正坂本あきら斉藤志郎菅原大吉・冷泉公裕

主題歌

「もののけ姫」
作詞:宮崎駿/作曲:久石譲
歌:米良美一

興行と賞歴

興行収入192億円、観客動員数1420万人を記録し、当時の日本映画の歴代興行収入第1位となった。2007年現在も、千と千尋の神隠し(1位)・ハウルの動く城(2位)・もののけ姫(3位)と、日本国内の興行収入歴代記録第3位を維持している。主題歌『もののけ姫』のCDシングルとサウンドトラックは共に50万枚以上を売り上げた。

一方、2000年のアメリカでの興行は、全国109館で公開されたものの話題にならず、興行収入は237万ドル(約3億円)とあまり振るわなかった。

1999年1月22日金曜ロードショーで初のTV放送がされ35.1%の視聴率を記録した。

  • 第1回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞
  • 第52回毎日映画コンクール日本映画大賞
  • 第21回日本アカデミー賞最優秀作品賞
  • 朝日デジタルエンターテイメント大賞・シアター部門賞
  • アニメーション神戸'97・部門賞(演出部門)、部門賞(デジタル技術部門)、アワード(劇場映画の部)
  • マルチメディアグランプリ'97・MMCA特別賞
  • 第15回ゴールデングロス賞・最優秀金賞、特別功労大賞
  • 報知映画賞・特別賞
  • 日刊スポーツ映画大賞・監督賞
  • 石原裕次郎賞
  • 第39回毎日芸術賞・映像・映画部門
  • エランドール賞・特別賞
  • 日本映画ペンクラブ・97年度ベスト5日本映画部門1位
  • ブルーリボン賞・特別賞
  • おおさか映画祭・特別賞
  • 高崎映画祭・最優秀監督賞
  • 映画鑑賞団体全国連絡会議・日本映画作品賞
  • 文化庁優秀映画・優秀映画作品賞
  • 読売映画・演劇広告賞 優秀賞
  • 日経優秀製品・サービス賞、最優秀賞、日本経済新聞賞
  • 日本レコード大賞・作曲賞、アルバム企画賞(サントラ)
  • 日本のメディア芸術100選アニメ部門選出

補足

製作事情

  • これまで宮崎駿の監督した長編アニメは、おおよそ5万~7万枚ほどの作画枚数で製作されてきたが、本作では一挙に14万枚以上もの枚数が使用された。宮崎は「ジブリを使いつぶす」ほどの覚悟で桁外れの労力と物量を本作に投入したというが、以後の『千と千尋の神隠し』(約11.2万枚)や『ハウルの動く城』(約14.8万枚)にもほぼ同規模(或いはそれ以上)のコストが費やされており、結果的にはスタジオジブリの製作体制そのものを刷新する形となった。
  • スタジオジブリ最後のセル画絵の具を使った作品となった。この作品以降スタジオジブリでは、線画をコンピュータに取り込み、デジタル彩色の手法を用いるフルデジタル処理で製作されるようになった。
  • 農業以外を生業とする庶民を描く日本の中世観は、歴史家網野善彦の歴史観の影響であると言われる。また、タタラ製鉄のメッカ、島根県に取材し和鋼博物館などを訪問している。

DVD

現在発売されているDVDには、日本語英語フランス語広東語ドイツ語イタリア語スペイン語ポルトガル語の8ヶ国語が収録されている。


関連項目

白谷雲水峡
  • 白神山地
  • 屋久島(白谷雲水峡) - 獣神の森のモデル
  • 安来市 - 屋杉(屋久杉の語源)の古代のなごりのモデル
  • 鳳来町(現新城市) - 谷や湖などのモデル
  • 富士見町 - 宮崎駿の別荘がある。乙事という地名があったり、付近ではヌメリイグチをジコボウと呼んだりと、関係が深い。そのほかにも、エボシ御前や甲六、カヤなどはこの付近の地名をもとにしていると思われる。
  • アテルイ - 平安時代初期に朝廷に抵抗した蝦夷の指導者。
  • ダイダラボッチ - ディダラボッチ
  • 新世紀エヴァンゲリオン - 宮崎は本作発表前に、この作品に批判的な意見を述べており、似通った部分が見られる。ちなみに監督である庵野秀明は『風の谷のナウシカ』で原画を担当している。
  • 劇場用アニメ映画参照

外部リンク