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『'''犬神家の一族'''』(いぬがみけのいちぞく)は、[[横溝正史]]の長編[[推理小説]]。「[[金田一耕助]]シリーズ」の一つ。
 
横溝作品としては最も映像化回数が多い作品であり、映画が3本、テレビドラマが8作品公開されており、特に[[市川崑]]監督による[[犬神家の一族 (1976年の映画)|1976年公開の映画版]]は、メディアによって「'''日本映画の金字塔'''」と称されることもある<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.pia.co.jp/news/hot/20061201_newyear_movie.html|title=正月映画は日本映画・時代劇が人気をリードする!|date=2007年12月1日 |accessdate=2009年2月13日 |website=@ぴあ|archiveurl=https://web.archive.org/web/20061215150004/http://www.pia.co.jp/news/hot/20061201_newyear_movie.html |archivedate=2006-12-15}}</ref>。
 
== 概要 ==
雑誌『[[キング (雑誌)|キング]]』に[[1950年]]1月号から[[1951年]]5月号まで掲載された作品。『[[獄門島]]』のように殺人に一つひとつ意味を付与して欲しいとの編集サイドからの注文に応じ、家宝の「斧、琴、菊(よき、こと、きく)」{{refnest|group="注釈"Efn|「斧、琴、菊(よき、こと、きく)」は歌舞伎、[[音羽屋]]、[[尾上菊五郎]]の[[役者文様]]で、横溝は音羽屋よりクレームが来ないかヒヤヒヤしたと語っている<ref>『横溝正史読本』(2008年改版)[[小林信彦]]編、[[角川文庫]]、[[2008年]] 第二部 自作を語る「『八つ墓村』と『犬神家の一族』」。</ref>。2006年の映画『[[犬神家の一族 (2006年の映画)|犬神家の一族]]』において[[尾上菊五郎 (7代目)|7代目尾上菊五郎]]の息子[[尾上菊之助 (5代目)]]が佐清役を、菊五郎の妻の[[富司純子]]が松子役を演じた。}}による[[見立て殺人]]が考案された。
 
登場人物(犬神梅子の家族)節で後述のとおり連載前の予告で犬神家は東京と[[長野県|信州]]と[[瀬戸内海]]の一孤島に分かれていると設定されていた<ref name="作者の言葉" />以外にも、草稿段階では佐兵衛の名前が「嘉門」→「佐兵衛」→「庄兵衛」、3人の子どもの名前が「太郎・次郎・三郎」→「佐助・幸次郎・荘三」→「寅彦・辰彦・午彦」→「庄太・庄二・庄三」→「虎之助・庄次郎・章吉」→「きし・みね・はま」、孫の名前が「兵蔵・(空白)・静馬」→「兵蔵・周平・静馬」→「申彦・酉彦・戌彦」→「清彦・文彦・智彦」→「武彦・文彦・智彦」と際立った変化があるのをはじめ、当初孫に設定されていた静馬が孫から外され、のちに「庄兵衛」と「梅乃」(菊乃の連載時名)との間にできた子どもの名前として復活して連載作品の設定に近づいていくなど、実際に掲載されるまでには夥しい構想の変化があった<ref>{{Cite book|和書| editor = [[江藤茂博]] | editor2 = 山口直孝 | editor3 = [[浜田知明]] | title = 横溝正史研究 5 | quote = 『犬神家の一族』生成の現場-草稿からたどる構想の軌跡 山口直孝 | pages=19-35 | publisher = [[戎光祥出版|戎光祥出版株式会社]]| date = 2013-03-29}}</ref>。
 
当時、横溝は初回を激賞した編集長から「作品を3年続けて欲しい」と要望されたものの、それだけの大長編を書く準備がなかったため断らざるをえなかったが、「この言葉には非常にやる気が出た」と後年語っている。
 
当初は通俗長編であるとして、[[権田萬治]]による『日本探偵作家論』(1975年)などに見られるように専門家の評価は低かったが、1976年[[角川春樹]]の鶴の一声での映画化と、横溝正史シリーズの第一作としてのテレビドラマ化とで人気が一気にあがった。また、当初は欠点とされていた犯人とトリック全体の関連性なども、むしろ時代の先取りとして評価する声も少なくない。作品中の犯人の「無作為の作為」が[[田中潤司]]をはじめ推理小説研究家の間で見直され、田中は「金田一もの」のベスト5を選出した中で、本作を『獄門島』『[[本陣殺人事件]]』に次いで第3位に挙げている<ref name="私のベスト10">『真説 金田一耕助』 横溝正史、[[角川文庫]]、1979年 「私のベスト10」。</ref>。「[[東西ミステリーベスト100]]」(『[[週刊文春]]』)[[東西ミステリーベスト100#2012年版|2012年版]]国内編で、本作品は39位に選出されている<ref group="注釈">『[[週刊文春]]』が推理作家や推理小説の愛好者ら約500名のアンケートにより選出したもので、他の横溝作品では『獄門島』が1位、『本陣殺人事件』が10位、『八つ墓村』が57位、『[[悪魔の手毬唄]]』が75位に選出されている。なお、[[東西ミステリーベスト100#1985年版|1985年版]]では本作品はノーランクだった。</ref>。
 
横溝自身、1977年の「私のベスト10」で本作を3位に選出しているが、田中の「金田一もの」ベスト5を受け入れてのもので<ref name="私のベスト10" />、自身が進んで選出したものではなく、それまでの過去4度の自選ランキング{{Efn|『[[週刊プレイボーイ]]』1975年10月28日号の「わたしの10冊」、『週刊プレイボーイ』1976年11月30日号の「殺人と推理代表作4」、『[[サンデー毎日]]』1977年10月9日号の「推理作家が選んだ3冊の推理小説」、『週刊プレイボーイ』1978年8月29日号の「作家自選ベスト5」<ref name="浜田解説" />。}}では1度も本作を選出していない<ref name="浜田解説">{{Cite book|和書|[[横溝正史]] |title= 横溝正史自選集4 犬神家の一族 |chapter=解説 [[浜田知明]] |pages=340–349 |publisher= [[出版芸術社]] |date=2006-12-10}}</ref>。横溝は、メイン・トリックが先にできてそれにふさわしいシチュエーションをあとから構成し、第1回の筆を取る前に全体の構想が細部までできあがっていた『本陣殺人事件』『獄門島』に対し、本作は逆にシチュエーションが先にできて第1回を書き始めたものの第2回を書く頃にもまだ犯人がはっきりまとまっておらず、トリックなども書き出してから考えていったもので、それでは[[本格派推理小説|本格探偵小説]]として力が弱いのは当然であると述べており、本作をあまり高く評価していない<ref>{{Cite book|和書|author=[[横溝正史]] |title= 横溝正史自選集4 犬神家の一族 |chapter=探偵小説の構想 |pages=321–324 |publisher= [[出版芸術社]] |date=2006-12-10}}</ref>。
 
登場人物(犬神梅子の家族)節で後述のとおり本作は、連載前の予告で犬神家は東京と[[長野県|信州]]と[[瀬戸内海]]の一孤島に分かれていると設定されていた<ref name="作者の言葉" />以外にも。また草稿段階では佐兵衛連載前の登場人物の名前が、佐兵衛{{Efn|「嘉門」→「佐兵衛」→「庄兵衛」→「佐兵衛」<ref name="構想の軌跡" />}}や、3人の子どもの名前が(松子・竹子・梅子){{Efn|「太郎・次郎・三郎」→「佐助・幸次郎・荘三」→「寅彦・辰彦・午彦」→「庄太・庄二・庄三」→「虎之助・庄次郎・章吉」→「きし・みね・はま」→「松子・竹子・梅子」<ref name="構想の軌跡" />}}3人名前が孫(佐清・佐武・佐智){{Efn|「兵蔵・(空白)・静馬」→「兵蔵・周平・静馬」→「申彦・酉彦・戌彦」→「清彦・文彦・智彦」→「武彦・文彦・智彦」→「佐清・佐武・佐智」<ref name="構想の軌跡" />}}などに際立った変化があるのをはじめ、当初孫に設定されていた静馬が孫から外され、のちに「庄兵衛」と「梅乃」(菊乃の連載時名)との間にできた子どもの名前として復活して連載作品の設定に近づいていくなど、草稿段階から実際に掲載されるまでには夥しい構想の変化があった<ref name="構想の軌跡">{{Cite book|和書| editor = [[江藤茂博]] | editor2 = 山口直孝 | editor3 = [[浜田知明]] | title = 横溝正史研究 5 | quote chapter= 『犬神家の一族』生成の現場-草稿からたどる構想の軌跡 山口直孝 | pages=19-35 | publisher = [[戎光祥出版|戎光祥出版株式会社]] | date = 2013-03-29}}</ref>。
 
[[File:Inugami Family 2023-02-01.png|thumb|120px|湖で発見される遺体のイメージ]]
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== あらすじ ==
昭和20年代のとある年(具体的な年が分からない点は[[#事件の発生年について|後述]])の2月、那須湖畔の本宅で[[長野県|信州]]財界の大物・犬神佐兵衛(いぬがみさへえ)が裸一貫の身から興した製糸業で築いた莫大な財産を残し、家族に見守られながら他界した。その[[遺産]]の配当や事業[[相続]]者を記した[[遺言状]]は、一族全員が揃った場で発表されることになっており、長女松子の一人息子佐清(すけきよ)の戦地からの[[復員]]を待つところとなっていた。佐兵衛は生涯に渡って正妻を持たず、それぞれ母親の違う娘が3人{{Efn|横溝の次女・野本瑠美は、本作について「わたしが生まれる前の我が家の状況が、舞台となっている」と述べている<ref>{{Cite book|和書|title=探偵小説の鬼 横溝正史 謎の骨格にロマンの衣を着せて |chapter=家族が語る横溝正史 作品に寄せてエピソードいろいろ (1) 「犬神家の一族」野本瑠美 |page=80 |series=別冊太陽 |publisher=[[平凡社]]|date=2024-04-11}}</ref>。横溝の父・宜一郎には3人の妻(最初の妻、横溝の実母である2番目の妻の波摩、その後妻で横溝の継母である浅恵)にそれぞれ子供がいた<ref>{{Cite book|和書|author=横溝正史 |editor=[[日下三蔵]] |title= 横溝正史エッセイコレクション2 横溝正史の世界 横溝正史読本 |chapter=『横溝正史の世界』「書かでもの記」より |pages=40–44 |publisher= [[柏書房|柏書房株式会社]] |date=2022-06-05}}</ref>。}}、皆婿養子をとり、さらにそれぞれに息子が1人ずついたが、お互いが反目し合っていた。
 
同年10月、金田一耕助は東京から単身で犬神家の本宅のある那須湖畔を訪れた。犬神家の顧問弁護士を務める古館恭三の法律事務所に勤務する若林豊一郎から、「近頃、犬神家に容易ならざる事態が起こりそうなので調査して欲しい」との手紙を受け取ったためであった。那須ホテルを宿泊拠点とした金田一は、湖畔から犬神家の豪邸を望んでいたところ、犬神家に寄寓している野々宮珠世の乗っているボートが沈みかかっているのを目撃し、犬神家の下男の猿蔵とともに珠世を救出する。ボートには穴が開けられており、猿蔵の語るところによると、珠世が何者かに狙われたのはこれで3度目だという。その後、金田一がホテルに戻ったところ、若林が何者かによって毒殺されていた。知らせを聞いて駆けつけた古館の語るところによると、どうやら若林は犬神家の誰かに買収されて、法律事務所の金庫に保管している佐兵衛の遺言状を盗み見てしまったらしい。先行きに不安を感じる古館の依頼で、金田一は犬神家の[[遺産相続]]に立ち会うこととなった。
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しかし、1949年(昭和24年)説では以下のような問題が生じることが指摘されている。
 
* 佐清と静馬がいたビルマについては、1947年(昭和22年)に復員が進み、朝日新聞が8月27日に「南方残留同胞の引揚は目下着々と進み…最近の消息によると、ビルマ地区はほとんど完了…」、10月30日には「東南アジアには今や日本人は1人も残留していない」と伝えている<ref>{{Cite journal|和書|author=[[増田弘]] |date=2013-03 |url=https://toyoeiwa.repo.nii.ac.jp/records/487 |title=日本降伏後における南方軍の復員過程 : 1945年 – 1948年 |journal=現代史研究 |publisher=[[東洋英和女学院大学]]現代史研究所 |volume=9 |pages=1-159 |naid=120005556880 |accessdate=2023-09-19 |CRID=1050564287797060736 |ref=harv}}</ref>など、1949年(昭和24年)としては復員状況が不自然である<ref>『犬神家の戸籍「血」と「家」の近代日本』[[遠藤正敬]][[青土社]]、2021年10月12日、ISBN 978-4-7917-7395-4、pp. 49–50。</ref>。
* [[岡山県]]で発生した『[[鴉 (横溝正史)|鴉]]』事件と時期(11月5日-8 - 8日)<ref group="注釈">『鴉』で金田一が現地入りした際、過去の事件が昭和二十一21十一116のことで明日がちょうど3年目と磯川警部が説明し、それから3日滞在。</ref>が重複する<ref group="注釈">ただし、完全に重複するわけではなく、『犬神家の一族』の遺言発表(11月1日)から神社に手形を取りに行く(11月15日)までの間の空白期間に入る。</ref>。
<!-- 一方、昭和22年説の場合、佐武の死体(生首)を目撃した金田一が昭和23年が舞台の『[[夜歩く]]』の事件を思い出しているので時系列が合わなくなる。(← 金田一が佐武の死体(生首)を目撃した際の発言は「首を斬り落とすということは、いままでにだってないことではない。首無し事件……そんな例はままあります」で、明確に『夜歩く』を示しておらず、一般論として「そんな例はままあります」と述べているように見えるのでコメントアウト)-->
 
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ただし、旧民法の場合でも戸主<ref group="注釈">佐兵衛は親兄弟の存在が確認できないので、戸籍を作った時点で自動的に戸主になる。</ref>の財産は法定推定家督相続人(前戸主の直系卑属)が全額相続することが最優先され(明治民法970条)、これは血縁関係・性別・嫡出か否か・年齢で1人が自動的に決定され、故人の遺言は無視されるため、そもそも本作のような状況にならないという問題が指摘されている{{Efn|これ以外に旧民法の場合、戸主は戸籍を離脱できない規定であり、野々宮家最後の一人である珠世は自動的に戸主になる都合上、嫁や養子に行くことができず、夫は「野々宮家に婿入り」という形でしか結婚できないので、夫が佐清・佐武・佐智のいずれであっても、夫は犬神家を継ぐことができなくなる問題も生じる<ref>『犬神家の戸籍「血」と「家」の近代日本』遠藤正敬、青土社、2021年10月12日、ISBN 978-4-7917-7395-4、pp. 155–156。</ref>。}}。もっとも、佐兵衛に生前認知された子が無い場合には、旧民法979条の規定により法定推定家督相続人が存在しないことになり、遺言状で遺産すべてを特定の人物に渡すことも可能になる<ref>旧民法の原文は [https://law-platform.jp/file/129089d/129089_131009 明治民法(明治29・31年)](法律情報基盤- Legal Information Platform -)を参照。</ref>。
 
映像化作品では、1976年版が冒頭で「昭和二十二年」(1947年)とのテロップを出し、1977年版、1994年版、2004年版、2006年版がこの設定を踏襲している。これについて1976年版監督の[[市川崑]]は「時代設定を原作のままの昭和二十二年にした」とパンフレットで述べているが<ref>{{Cite book|和書 | title = 犬神家の一族 | quotechapter = [[市川崑]]「犬神家の一族」MEMO | page=3 | publisher = 東宝株式会社事業部 | series = 東宝映画パンフレット | date = 1976-10-04}}</ref>、市川が原作の設定を「昭和22年」と認識した根拠は不明である。1990年版は1949年(昭和24年)の設定であり、2018年版と2020年版は年を表示していない。2023年版も年が不明だが、3姉妹が戸籍上は親族ではないという旧民法で法定推定家督相続人が生じない設定にしており、台詞にもわざわざ「現行の法律では」とあることから、旧民法が有効な時期問題を意識事件と設定ている可能性が考えられる。なお、1970年版の『蒼いけものたち』は基本設定が大きく異なり、放送当時の1970年頃が舞台<ref group="注釈">本編内で佐兵衛が「25年前」に東京空襲に遭ったとしている。</ref>となっている。
 
== 登場人物 ==
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映像作品(特に1976年版映画)での「波立つ水面から突き出た足」のシーンが有名であるが、原作では季節が初冬で湖面は凍った状態、死体はパジャマを着たまま、湖に突っ込んでいるのはヘソから上であり、この通りに映像化されているのは2020年版と2023年版のテレビドラマのみである。「斧、琴、菊」の見立て殺人の最後に残った「斧(ヨキ)」について、原作では屋敷から斧やそれに類する道具が一切処分されていたため、犯人は佐清(スケキヨ)を絞殺した後、さかさまにして下半身だけを見せることによって「ヨキ(ケス)」を表現している(この判じ物はすぐに金田一によって解かれている)。しかし、映像化作品では、初期の1954年版映画と1970年版テレビドラマを除く全作品で湖から脚が突き出ている情景を描写しているにもかかわらず、その半数近くで「判じ物」を説明していない。そのうち知名度が高い1976年版映画(および2006年のリメイク)では原作の設定を無視して斧を殺害の凶器とし、そもそも「判じ物」が不要であり死体を湖に倒立させた理由が不明である。2023年版テレビドラマでも死体に斧を添えており同様である。また、1977年版テレビドラマでは、斧を殺害の凶器としたため必要性が無くなっている「判じ物」を死体に「スケキヨ」と書くことによって明示し、「斧」の提示を重複させている。
 
佐清のゴムマスクは、原作では美男子だった佐清の顔をそのまま写したもので、視力の衰えた宮川香琴が初めて見たときすぐさま仮面とは分からなかったという描写があり、1954年版映画<ref>{{Cite web|和書|url=https://twitter.com/Chizu_Yamamoto/status/1649769271612825607 |title=2023年版 スケキヨマスク比較表! |accessdate=2024-5-8}}</ref>や1970年版テレビドラマではその描写に従っていた顔面のみを覆う仮面であるが、1976年版映画で頭から首まですっぽり覆うものに変更され、この変更がその後の映像化(2020年版テレビドラマを除く)でも踏襲されている。また、原作における製作経緯や上述の描写からはマスクは自然な肌の色と推測できる(佐智殺害後の描写に「白い仮面」とあるが「白っぽい」意味と考えられる)が、映像作品では真っ白あるいはゴムの材質感が残る色調のマスクとしていることが多い。なおただし19542020年版映画テレビドラマではずっと巾をらすていぽり覆う形態であ<!--- 髪など外す場面が限定的再現しており、原作の描写存在す近くなっていようだが、詳細情報は未確認 --->
 
原作の重要なトリックの1つに佐智が監禁場所から自力脱出し殺害後に戻されたというものがあるが、映像作品で採用しているのは1970年版、2004年版、2020年版、2023年版のテレビドラマのみである(1977年版テレビドラマは監禁場所で殺害、他は死体発見場所が異なる<!--- 1954年版映画は未確認 --->)。
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原作では珠世が佐兵衛の実の孫という事実を大山神主が無節操に暴露し、それによって珠世が自分の姪だと知った静馬が結婚を目指せなくなり、松子が仮面の男が静馬だと気付く契機になっている。しかし、この設定を維持している映像化は、原作を短編に圧縮する構成とした2020年版テレビドラマでの「暴露」の部分のみである<!--- 1954年版映画は未確認 --->。映像化作品の半数程度で実の孫という設定を排除しており、排除していない他の作品でも金田一や古館ら少数の登場人物が知るのみで静馬が事実を知る展開にはならない。
 
原作の印象的な場面の1つに、佐清が犯人は自分であると印象づけるために雪山で警官隊と銃撃戦を演じたあと自殺を図るというものがあるが、1度も映像化されていない。雪山という状況を排した銃撃戦も初期の1954年版映画や1970年版テレビドラマのみであり、他で相当する場面拳銃が持ち出されて銃撃戦に至らない事例も2018年版テレビドラマで銃撃戦を経ずに佐清が拳銃自殺を図る場面と2023年版テレビドラマ焼身自殺を図っていた佐清が警官隊に一方的に発砲すのみであ場面とに限られる。なお、2023年版テレビドラマでは、潜伏していた佐清の焼身自殺未遂は佐智が強姦を阻止された廃屋で行われており、この廃屋が存在する場所の地名が原作における雪山の名である「雪ヶ峰」になっているが雪山ではないし、佐清が警官隊に一方的に発砲する場面があるものの銃撃戦にはなっていない。
 
== 映画 ==
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:* 音楽 - [[佐藤允彦]]
:* 編集 - 神島帰美
:* 監督 - [[鈴木敏郎 (映画監督)|鈴木敏郎]]
:* 制作 - [[東宝]]、日本テレビ
 
=== 1977年版 ===
『'''[[古谷一行の金田一耕助シリーズ#横溝正史シリーズI・II(概要)|横溝正史シリーズI]]・犬神家の一族'''』は、[[毎日放送]](MBSテレビ)と[[角川映画|角川春樹事務所]](旧法人)の共同企画、[[大映京都撮影所|大映京都]]の製作により[[TBSテレビ|TBS]][[ジャパン・ニュース・ネットワーク|系列]]で[[1977年]][[4月2日]]から[[4月30日]]まで毎週土曜日22時 - 22時55分に放送された。
 
テレビドラマ版において金田一耕助を最も多く演じている[[古谷一行]]が初めて金田一役を演じたのが本作であり、初放映時の最高視聴率は40.2パーセントであった<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.videor.co.jp/tvrating/past_tvrating/movie/01/post-15.html|title=映画(総合)|publisher=週間高世帯視聴率番組|accessdate=2021-06-19}}</ref>。
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:* 探偵事務所のおばさん - [[野村昭子]]
:* キヨちゃん(那須ホテル女中) - [[井上聡子]]
; スタッフ
:* 企画 - [[角川映画|角川春樹事務所]]、[[毎日放送]]
:* プロデューサー - [[青木民男]](毎日放送)、香取擁史、[[西岡善信]]
:* 脚本 - [[服部佳]]
:* 撮影 - [[森田富士郎]]
:* 照明 - [[山下礼二郎]]
:* 美術 - 西岡善信
:* 衣装 - 伊藤なつ
:* 美粧 - 竹村浩二
:* 結髪 - 石井ヱミ
:* 協力 - [[京都衣装]]、[[山崎かつら]]、[[高津商会]]、[[京阪商会]]
:* 現像 - [[IMAGICA|東洋現像所]]
:* 衣装協力 - [[鈴乃屋]]
:* 音楽 - [[真鍋理一郎]]
:* 主題歌 - [[茶木みやこ]]「まぼろしの人」
:* 監督 - [[工藤栄一]]
:* 制作 - 毎日放送、[[大映|大映映画]]、[[映像京都]]
 
=== 1990年版 ===
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:* 脚本 - [[佐藤嗣麻子]]
:* 音楽 - [[佐橋俊彦]]
:* プロローグ原案 - [[樹林伸]]<ref group="注釈">樹林は、本作の主人公である「金田一耕助の孫」という設定の高校生・金田一一を主人公とする漫画『[[金田一少年の事件簿]]』の原作者([[天樹征丸]]名義)である。</ref>
:* プロローグ原案 - [[樹林伸]]
:* ロケ協力 - [[岡山県]]、倉敷コンベンションビューロー、[[横溝正史疎開宅]]、[[香川県]]、[[丸亀市]]、[[坂出市]]、香川県観光協会、呉地域フィルムコミッション、[[海上自衛隊]]呉地方総監部 ほか
:* 特殊造型監修 - 臼井則政
:* 特殊効果 - [[パイロテック]]
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佐智殺害後、佐清は警察に静馬の名で告白文を送り廃屋に放火するが、告白文を見て駆けつけた警察に救出され<ref group="注釈">廃屋の所在地は原作で佐清が銃撃戦を演じた雪山の名である「雪ヶ峰」となっている。</ref>、火の手を見て猿蔵のボートで金田一と共に駆けつけた珠世が佐清だと確認する。佐清は病院に収容され、顔が判らなくなるようにして静馬として焼死しようとしたと語る。そのころ静馬は行方不明になる。
 
静馬が行方不明のまま、金田一と磯川が松子だけと真相を語ろうとするが、竹子夫婦と梅子夫婦も押しかけてくる。金田一はまず松子の犯行だけについて語り、そのあと佐清と珠世を呼び入れて佐清に事後工作について語らせる。事後工作は佐清と静馬が対等に協力して行ったという。ビルマ戦線で自分の作戦ミスで大勢の部下を失い静馬にも火傷を負わせた佐清は、その責任感から静馬に自分と入れ替わる権利があると考えたと語る。

静馬は母・菊乃を幼時のうちに失っていたことで犬神家への恨み引き継いでおらず、犬神家に入り込んだ目的は復讐でも財産でもなく母親への思慕(戦地で佐清に見せてもらった親子写真を通じて知った(衝動的に惹かれてしまった)「松子から佐清へ注がれている純粋無垢な母性愛」へ存在憧れ)だったという。
 
3姉妹が菊乃を襲撃したとき時、松子静馬に火傷を負わせており、松子はその火傷を再度目撃することで静馬の正体に気付いてしまっていた。松子が煙草で服毒自殺するのとほぼ同時に静馬の死体が発見されたとの報告が入る。松子が原作とは異なり、死の間際に珠世に、の松子が産まれてくる小夜子(と佐智)の子に財産の半分を分けて欲しいと珠世に頼むことはない。
 
金田一は一旦東京に戻るが、佐清からの事後処理に関する報告の手紙を受け取って再度現地へ向かい、収監中の佐清に疑問をぶつける<ref group="注釈">金田一との会話からは佐清の刑期が未確定と判断され、佐清は未決収監中と考えられるが、新聞記事や佐清からの手紙では犯人隠匿と証拠隠滅で服役していることになっている。</ref>。(「火事のとき佐清は告白文を郵送せず子供に使送させており、警察に助けさせるつもりだったのではないか?」「松子と静馬の各々の愛に付け込んで2人を操って邪魔者を始末させ、最も効果的な場面で正体を現して犬神家の全てを得ようとしたのではないか<ref group="注釈">ただし、名乗りを上げて珠世と結婚するだけで犬神家の全てを得られる佐清が、そのような回りくどいやり方をしてまで邪魔者を始末させなければならない理由を、金田一は説明していない。</ref>」)をぶつける<ref group="注釈">金田一との会話からは佐清の刑期が未確定と判断され、佐清は未決収監中と考えられるが、新聞記事や佐清からの手紙では犯人隠匿と証拠隠滅で服役していることになっている。</ref>。しかし、佐清は「(金田一が)病気だ(考えすぎだ)」と言って疑問を否定して去る。
 
; キャスト