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『'''犬神家の一族'''』(いぬがみけのいちぞく)は、[[横溝正史]]の長編[[推理小説]]。「[[金田一耕助]]シリーズ」の一つ。
 
横溝作品としては最も映像化回数が多い作品であり、映画が3本、テレビドラマが8作品公開されており、特に[[市川崑]]監督による[[犬神家の一族 (1976年の映画)|1976年公開の映画版]]は、メディアによって「'''日本映画の金字塔'''」と称されることもある<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.pia.co.jp/news/hot/20061201_newyear_movie.html|title=正月映画は日本映画・時代劇が人気をリードする!|date=2007年12月1日 |accessdate=2009年2月13日 |website=@ぴあ|archiveurl=https://web.archive.org/web/20061215150004/http://www.pia.co.jp/news/hot/20061201_newyear_movie.html |archivedate=2006-12-15}}</ref>。
 
== 概要 ==
雑誌『[[キング (雑誌)|キング]]』に[[1950年]]1月号から[[1951年]]5月号まで掲載された作品。『[[獄門島]]』のように殺人に一つひとつ意味を付与して欲しいとの編集サイドからの注文に応じ、家宝の「斧、琴、菊(よき、こと、きく)」{{refnest|group="注釈"Efn|「斧、琴、菊(よき、こと、きく)」は歌舞伎、[[音羽屋]]、[[尾上菊五郎]]の[[役者文様]]で、横溝は音羽屋よりクレームが来ないかヒヤヒヤしたと語っている<ref>『横溝正史読本』(2008年改版)[[小林信彦]]編、[[角川文庫]]、[[2008年]] 第二部 自作を語る「『八つ墓村』と『犬神家の一族』」。</ref>。2006年の映画『[[犬神家の一族 (2006年の映画)|犬神家の一族]]』において[[尾上菊五郎 (7代目)|7代目尾上菊五郎]]の息子[[尾上菊之助 (5代目)]]が佐清役を、菊五郎の妻の[[富司純子]]が松子役を演じた。}}による[[見立て殺人]]が考案された。
 
登場人物(犬神梅子の家族)節で後述のとおり連載前の予告で犬神家は東京と[[長野県|信州]]と[[瀬戸内海]]の一孤島に分かれていると設定されていた<ref name="作者の言葉" />以外にも、草稿段階では佐兵衛の名前が「嘉門」→「佐兵衛」→「庄兵衛」、3人の子どもの名前が「太郎・次郎・三郎」→「佐助・幸次郎・荘三」→「寅彦・辰彦・午彦」→「庄太・庄二・庄三」→「虎之助・庄次郎・章吉」→「きし・みね・はま」、孫の名前が「兵蔵・(空白)・静馬」→「兵蔵・周平・静馬」→「申彦・酉彦・戌彦」→「清彦・文彦・智彦」→「武彦・文彦・智彦」と際立った変化があるのをはじめ、当初孫に設定されていた静馬が孫から外され、のちに「庄兵衛」と「梅乃」(菊乃の連載時名)との間にできた子どもの名前として復活して連載作品の設定に近づいていくなど、実際に掲載されるまでには夥しい構想の変化があった<ref>{{Cite book|和書| editor = [[江藤茂博]] | editor2 = 山口直孝 | editor3 = [[浜田知明]] | title = 横溝正史研究 5 | quote = 『犬神家の一族』生成の現場-草稿からたどる構想の軌跡 山口直孝 | pages=19-35 | publisher = [[戎光祥出版|戎光祥出版株式会社]]| date = 2013-03-29}}</ref>。
 
当時、横溝は初回を激賞した編集長から「作品を3年続けて欲しい」と要望されたものの、それだけの大長編を書く準備がなかったため断らざるをえなかったが、「この言葉には非常にやる気が出た」と後年語っている。
 
当初は通俗長編であるとして、[[権田萬治]]による『日本探偵作家論』(1975年)などに見られるように専門家の評価は低かったが、1976年[[角川春樹]]の鶴の一声での映画化と、横溝正史シリーズの第一作としてのテレビドラマ化とで人気が一気にあがった。また、当初は欠点とされていた犯人とトリック全体の関連性なども、むしろ時代の先取りとして評価する声も少なくない。作品中の犯人の「無作為の作為」が[[田中潤司]]をはじめ推理小説研究家の間で見直され、田中は「金田一もの」のベスト5を選出した中で、本作を『獄門島』『[[本陣殺人事件]]』に次いで第3位に挙げている<ref name="私のベスト10">『真説 金田一耕助』 横溝正史、[[角川文庫]]、1979年 「私のベスト10」。</ref>。「[[東西ミステリーベスト100]]」(『[[週刊文春]]』)[[東西ミステリーベスト100#2012年版|2012年版]]国内編で、本作品は39位に選出されている<ref group="注釈">『[[週刊文春]]』が推理作家や推理小説の愛好者ら約500名のアンケートにより選出したもので、他の横溝作品では『獄門島』が1位、『本陣殺人事件』が10位、『八つ墓村』が57位、『[[悪魔の手毬唄]]』が75位に選出されている。なお、[[東西ミステリーベスト100#1985年版|1985年版]]では本作品はノーランクだった。</ref>。
 
横溝自身、1977年の「私のベスト10」で本作を3位に選出しているが、田中の「金田一もの」ベスト5を受け入れてのもので<ref name="私のベスト10" />、自身が進んで選出したものではなく、それまでの過去4度の自選ランキング{{Efn|『[[週刊プレイボーイ]]』1975年10月28日号の「わたしの10冊」、『週刊プレイボーイ』1976年11月30日号の「殺人と推理代表作4」、『[[サンデー毎日]]』1977年10月9日号の「推理作家が選んだ3冊の推理小説」、『週刊プレイボーイ』1978年8月29日号の「作家自選ベスト5」<ref name="浜田解説" />。}}では1度も本作を選出していない<ref name="浜田解説">{{Cite book|和書|[[横溝正史]] |title= 横溝正史自選集4 犬神家の一族 |chapter=解説 [[浜田知明]] |pages=340–349 |publisher= [[出版芸術社]] |date=2006-12-10}}</ref>。横溝は、メイン・トリックが先にできてそれにふさわしいシチュエーションをあとから構成し、第1回の筆を取る前に全体の構想が細部までできあがっていた『本陣殺人事件』『獄門島』に対し、本作は逆にシチュエーションが先にできて第1回を書き始めたものの第2回を書く頃にもまだ犯人がはっきりまとまっておらず、トリックなども書き出してから考えていったもので、それでは[[本格派推理小説|本格探偵小説]]として力が弱いのは当然であると述べており、本作をあまり高く評価していない<ref>{{Cite book|和書|author=[[横溝正史]] |title= 横溝正史自選集4 犬神家の一族 |chapter=探偵小説の構想 |pages=321–324 |publisher= [[出版芸術社]] |date=2006-12-10}}</ref>。
 
登場人物(犬神梅子の家族)節で後述のとおり本作は、連載前の予告で犬神家は東京と[[長野県|信州]]と[[瀬戸内海]]の一孤島に分かれていると設定されていた<ref name="作者の言葉" />以外にも。また草稿段階では佐兵衛連載前の登場人物の名前が、佐兵衛{{Efn|「嘉門」→「佐兵衛」→「庄兵衛」→「佐兵衛」<ref name="構想の軌跡" />}}や、3人の子どもの名前が(松子・竹子・梅子){{Efn|「太郎・次郎・三郎」→「佐助・幸次郎・荘三」→「寅彦・辰彦・午彦」→「庄太・庄二・庄三」→「虎之助・庄次郎・章吉」→「きし・みね・はま」→「松子・竹子・梅子」<ref name="構想の軌跡" />}}3人名前が孫(佐清・佐武・佐智){{Efn|「兵蔵・(空白)・静馬」→「兵蔵・周平・静馬」→「申彦・酉彦・戌彦」→「清彦・文彦・智彦」→「武彦・文彦・智彦」→「佐清・佐武・佐智」<ref name="構想の軌跡" />}}などに際立った変化があるのをはじめ、当初孫に設定されていた静馬が孫から外され、のちに「庄兵衛」と「梅乃」(菊乃の連載時名)との間にできた子どもの名前として復活して連載作品の設定に近づいていくなど、草稿段階から実際に掲載されるまでには夥しい構想の変化があった<ref name="構想の軌跡">{{Cite book|和書| editor = [[江藤茂博]] | editor2 = 山口直孝 | editor3 = [[浜田知明]] | title = 横溝正史研究 5 | quote chapter= 『犬神家の一族』生成の現場-草稿からたどる構想の軌跡 山口直孝 | pages=19-35 | publisher = [[戎光祥出版|戎光祥出版株式会社]] | date = 2013-03-29}}</ref>。
横溝自身は、メイン・トリックが先にできてそれにふさわしいシチュエーションをあとから構成し、第1回の筆を取る前に全体の構想が細部までできあがっていた『本陣殺人事件』『獄門島』に対し、本作は逆にシチュエーションが先にできて第1回を書き始めたものの第2回を書く頃にもまだ犯人がはっきりまとまっておらず、トリックなども書き出してから考えていったもので、それでは本格探偵小説として力が弱いのは当然であると述べており、本作をあまり高く評価していない<ref>{{Cite book|和書|author=[[横溝正史]] |title= 横溝正史自選集4 犬神家の一族 |chapter=探偵小説の構想 |pages=321–324 |publisher= [[出版芸術社]] |date=2006-12-10}}</ref>。
 
[[File:Inugami Family 2023-02-01.png|thumb|120px|湖で発見される遺体のイメージ]]
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ただし、旧民法の場合でも戸主<ref group="注釈">佐兵衛は親兄弟の存在が確認できないので、戸籍を作った時点で自動的に戸主になる。</ref>の財産は法定推定家督相続人(前戸主の直系卑属)が全額相続することが最優先され(明治民法970条)、これは血縁関係・性別・嫡出か否か・年齢で1人が自動的に決定され、故人の遺言は無視されるため、そもそも本作のような状況にならないという問題が指摘されている{{Efn|これ以外に旧民法の場合、戸主は戸籍を離脱できない規定であり、野々宮家最後の一人である珠世は自動的に戸主になる都合上、嫁や養子に行くことができず、夫は「野々宮家に婿入り」という形でしか結婚できないので、夫が佐清・佐武・佐智のいずれであっても、夫は犬神家を継ぐことができなくなる問題も生じる<ref>『犬神家の戸籍「血」と「家」の近代日本』遠藤正敬、青土社、2021年10月12日、ISBN 978-4-7917-7395-4、pp. 155–156。</ref>。}}。もっとも、佐兵衛に生前認知された子が無い場合には、旧民法979条の規定により法定推定家督相続人が存在しないことになり、遺言状で遺産すべてを特定の人物に渡すことも可能になる<ref>旧民法の原文は [https://law-platform.jp/file/129089d/129089_131009 明治民法(明治29・31年)](法律情報基盤- Legal Information Platform -)を参照。</ref>。
 
映像化作品では、1976年版が冒頭で「昭和二十二年」(1947年)とのテロップを出し、1977年版、1994年版、2004年版、2006年版がこの設定を踏襲している。これについて1976年版監督の[[市川崑]]は「時代設定を原作のままの昭和二十二年にした」とパンフレットで述べているが<ref>{{Cite book|和書 | title = 犬神家の一族 | chapter = [[市川崑]]「犬神家の一族」MEMO | page=3 | publisher = 東宝株式会社事業部 | series = 東宝映画パンフレット | date = 1976-10-04}}</ref>、市川が原作の設定を「昭和22年」と認識した根拠は不明である。1990年版は1949年(昭和24年)の設定であり、2018年版と2020年版は年を表示していない。2023年版も年が不明だが、3姉妹が戸籍上は親族ではないという旧民法で法定推定家督相続人が生じない設定にしており、台詞にもわざわざ「現行の法律では」とあることから、旧民法が有効な時期問題を意識事件と設定ている可能性が考えられる。なお、1970年版の『蒼いけものたち』は基本設定が大きく異なり、放送当時の1970年頃が舞台<ref group="注釈">本編内で佐兵衛が「25年前」に東京空襲に遭ったとしている。</ref>となっている。
 
== 登場人物 ==
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3姉妹が菊乃を襲撃した時、松子は静馬に火傷を負わせており、松子はその火傷を再度目撃することで静馬の正体に気付いてしまっていた。松子が煙草で服毒自殺するのとほぼ同時に静馬の死体が発見されたとの報告が入る。原作とは異なり、死の間際の松子が産まれてくる小夜子(と佐智)の子に財産の半分を分けて欲しいと珠世に頼むことはない。
 
金田一は一旦東京に戻るが、佐清からの事後処理に関する報告の手紙を受け取って再度現地へ向かい、収監中の佐清に疑問をぶつける<ref group="注釈">金田一との会話からは佐清の刑期が未確定と判断され、佐清は未決収監中と考えられるが、新聞記事や佐清からの手紙では犯人隠匿と証拠隠滅で服役していることになっている。</ref>。(「火事のとき佐清は告白文を郵送せず子供に使送させており、警察に助けさせるつもりだったのではないか?」「松子と静馬の各々の愛に付け込んで2人を操って邪魔者を始末させ、最も効果的な場面で正体を現して犬神家の全てを得ようとしたのではないか<ref group="注釈">ただし、名乗りを上げて珠世と結婚するだけで犬神家の全てを得られる佐清が、そのような回りくどいやり方をしてまで邪魔者を始末させなければならない理由を、金田一は説明していない。</ref>」)をぶつける<ref group="注釈">金田一との会話からは佐清の刑期が未確定と判断され、佐清は未決収監中と考えられるが、新聞記事や佐清からの手紙では犯人隠匿と証拠隠滅で服役していることになっている。</ref>。しかし、佐清は「(金田一が)病気だ(考えすぎだ)」と言って疑問を否定して去る。
 
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