削除された内容 追加された内容
m Bot作業依頼#Cite webテンプレートのdeadlink、deadlinkdate引数の移行
 
(69人の利用者による、間の101版が非表示)
1行目:
'''上水道'''(じょうすいどう)とは、一般的には飲用に適する[[水]]を供給するための施設を指す<ref name="masuda">{{Cite journal |和書 |author=増田正直 |authorlink= |title=中水道についての検討 |journal= 水利科学|volume=13 |issue=3 |publisher=水利科学研究所 |date=1969-08 |pages=39-56 |url=https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010845805.pdf}}</ref>。上水道は水を供給する施設であり、水を排出する施設である[[下水道]]と対置される<ref name="masuda" />。単に「'''水道'''」という場合も、導管などの工作物により、人の飲用に適する水を供給する施設を指すことが多く<ref>{{Cite web |url=https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000476640.pdf |title= 水道の現状について|publisher=厚生労働省 |date= |accessdate=2024-02-25}}</ref>、下水道などとの区別を強調する場合に上水道と呼ばれることが多い。
{{国際化|[[日本]]}}
'''上水道'''(じょうすいどう、Water Supply)とは、一般に飲用可能な[[水]]の公共的な供給設備一般を指す。上水道には単に「'''水道'''」という呼び方もあり、[[下水道]]や[[中水道]]などとの区別を強調する場合に上水道と呼ばれることが多い。
 
近代的な意味では、有圧送水、ろ過浄水、常時給水の3つの特徴を有するものをいう(近代水道)<ref name="utsunomiya" />。一方、[[開発途上国]]への経済技術協力の報告書等では、必ずしも各家庭に直接給水するシステムのみを指す概念ではない<ref name="jica59" />(後述)。
日本の法律では[[水道法]]による水道のことを指し、この定義では「導管およびその他の工作物により、水を人の飲用に適する水として供給する[[施設]]の総体をいう」とされている。
 
なお、法制度上は一定規模以上のものを「上水道(事業)」と呼ぶ場合がある([[日本]]では上水道事業と[[簡易水道|簡易水道事業]]を区別する)<ref name="soumu" />。
以下では特に断らない限り、日本での上水道に付いて説明する。
 
== 水道事業概要 ==
古代より[[河川]]や[[湖沼]]から水路を通して集落さらには[[都市]]に水を供給することが行われ、水源から開水路や石樋、木樋などを設置して自然流下で給配水する方式がとられた<ref name="utsunomiya">{{Cite web |url=https://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/013/818/kinensi06.pdf |title=宇都宮市水道100周年下水道50周年史 通史編|publisher=宇都宮市 |date= |accessdate=2024-02-25}}</ref><ref name="sakai">{{Cite web |url=https://water.city.sakai.lg.jp/material/files/group/2/honsatsu02-2.pdf |title=第2章 近代水道の創設|publisher=堺市上下水道局 |date= |accessdate=2024-02-25}}</ref>。しかし、[[19世紀]]に近代水道の三大発明と称される「鋳鉄管」「砂ろ過」「[[ポンプ]]」などの技術革新を生じ、近代水道の3つの大きな特徴とされる「有圧送水」「ろ過処理」「常時給水」が[[ヨーロッパ]]から普及していった<ref name="utsunomiya" /><ref name="sakai" />。
一般の需要に応じて、[[水道]]により飲用に適する[[水]]を供給する事業のうち給水人口が100人を超えるものを水道事業という。
*[[簡易水道]]事業 - 水道事業のうち給水人口が5,000人以下であるもの(水道法)
*水道用水供給事業 - 水道により水道事業者に対してその用水を供給する事業(水道法)
*上水道(事業) - 水道事業のうち簡易水道を除いた給水人口が5,000人を越えるものを、上水道(事業)ということがあるが、厳密には水道法で定義された概念ではない。
 
上水道は一般的には飲用に適する水を供給するための施設を指すが、飲用を含まない雑用に使用するための水道施設や上水道で使用された水を処理して再利用する水道もあり、それぞれ雑用水道や[[中水道]]と呼ばれることもある<ref name="masuda" />。前者は工業用水などとして法律上あるいは施設上区別されることがある([[工業用水道]]や工業用水管など)<ref>{{Cite web |url=https://www.pref.ibaraki.jp/doboku/kensa/kanri/documents/01_12.pdf |title=第12編 上水道・工業用水道編|publisher=茨城県 |date= |accessdate=2024-02-25}}</ref>。上水道も実際には飲用よりも雑用に使われる比率が高いが、生活用水としては飲用に適する水質であることが望ましく、上水道と別に雑用水道を全面的に敷設すると総合的に水コストが高くなるなどの問題がある<ref name="masuda" />。
== 水道事業者 ==
水道事業を経営しようとする場合は、[[厚生労働大臣]]または都道府県知事の[[認可]]を受けなければならない。認可を受けた水道事業者は、事業計画に定める給水区域内の需要者から給水契約の申込みを受けたときは、正当な理由がなければ拒むことができず、原則として、水道により給水を受ける者に対し、常時水を供給しなければならない。また、施設を変更したり、料金を変更するときは、厚生労働大臣等の認可を受けなければならないなど、水道法の規制を受ける。
 
なお、開発途上国では水道施設について三種に区分し、経済技術協力分野ではこれらを総称して「上水道」と呼ぶ場合がある<ref name="jica59">{{Cite web |url=https://openjicareport.jica.go.jp/pdf/10315406.pdf |title=昭和59年度経済技術協力評価調査(フィリピン・インドネシア-上下水道セクター編)|publisher=国際協力事業団|date= |accessdate=2024-02-25}}</ref>。
現在、水道事業はそのほとんどが[[地方公共団体]]により経営される企業([[地方公営企業]])によって行われ[[独立採算制]]で運営されている。多くの地域で、個々の需用者と直接契約して給水する「水の小売り」は各市町村の水道事業が担当している。都府県営水道がある地域でも「水の問屋」として各市町村に対して給水するのが普通だが、例外として、東京都(23区全域と多摩地区の一部)・千葉県(北西部の大部分)・神奈川県(中央部の大部分)などでは、都県営水道が直接利用者と契約して給水している。また、主に上水道に従事する公務員は、地方公営企業の職員として、水道事業による収入から給与・手当が支給される。一方、主に簡易水道に従事する公務員は、首長部局の職員として、簡易水道事業を所管する特別会計から給与・手当が支給される。
* Level I System - [[井戸]]や泉に周囲の家庭が汲みにくることができるようにした設備<ref name="jica59" />
* Level II System - 水源から地域の公共栓まで給水し、その周囲の家庭が汲みにくることができるようにした設備<ref name="jica59" />
* Level III System - 水源から各家庭に直接給水する設備<ref name="jica59" />
 
== 上水道の歴史 ==
水道事業を行なう主体は、都道府県では[[水道局]]あるいは企業庁・[[企業局]]の水道部門である。市町村では、水道局・水道部・水道課と呼ばれているほか、上下水道局・建設部などの一部門となっている自治体も多い。複数の市町村にまたがる[[企業団]]や[[組合]]が水道事業を行なう地域もある。近年、水道料金の値上げが多く、その理由として水源地の水利権の高コストや老朽施設の更新、建設時の借入金負担や市町村合併に伴う価格見直しや節水へ意識誘導する目的で単価を上げると言った理由がある。
=== 世界の上水道の歴史 ===
世界の水道の起源として紀元前312年に整備された[[古代ローマ]]の[[アッピア水道]]が挙げられることがある<ref name="sakai" />。しかし、より古く[[インダス文明]]の[[モヘンジョダロ]]が挙げられることもある<ref name="utsunomiya" />。
 
近代水道の始まりについても様々な捉え方があり、[[1787年]]に[[パリ]]で蒸気式揚水用ポンプが使われたのが始まりと紹介するものもあれば<ref name="sakai" />、[[1808年]]に[[イギリス]]の[[グラスゴー]]で水道会社が横流れ式の砂・砂利ろ過池でろ過して給水を行ったのを始まりと紹介するものもある<ref name="utsunomiya" />。
;水道事業の民営化
 
=== 日本の上水道の歴史 ===
欧州や米国では水道事業を民間に開放しているところもあり、必ずしも自治体が提供する公営事業とは限らない。[[イギリス]]や[[フランス]]、[[オランダ]]等のように水道事業を民間会社が行っているのが一般的な国もあり、これらの国の水道運営会社は世界各国にも進出し[[水メジャー]]と呼ばれている。水メジャーの世界3大企業はフランスの[[w:en:Suez Environnement|スエズ]]、[[w:en:Veolia Environnement|ヴェオリア]]とイギリスの[[w:en:Thames Water|テームズウォーター]]である。歴史的には、[[リヨン]]市の水道事業が民間委託化されたのが[[1853年]]であるが、欧米で民営化が広く行われるようになったのは20世紀に入ってからであった。2008年現在、全世界の水道供給人口50億人のうち、民営化された水道企業が水を供給しているのは4億人である<ref>日本貿易会 月報 2008年2月号 http://www.jftc.or.jp/shoshaeye/contribute/contrib2008_02a.pdf</ref><ref>R25.jp 世界の「水メジャー」って何者? http://r25.jp/b/honshi/a/ranking_review_details/id/1112009042304</ref>。
[[File:Sluiceway of Gosen Aqueduct 4 (masu).JPG|thumb|200px|right|日本現役最古の上水道である轟泉水道]]
日本で記録に残る最古の水道は[[北条氏康]]が[[小田原城]]下に整備した[[小田原早川上水]]とされており、木樋で給配水を行い、[[炭]]や砂によるろ過も採用されていたとされる<ref name="utsunomiya" />。[[豊臣秀吉]]の[[小田原征伐]]に参陣した諸大名たちは、この上水を見て、自領の上水開設の参考にしたものと考えられている<ref>{{Cite book |和書 |author=石井啓文 |year=2001 |title=小田原の郷土史再発見 |publisher=夢工房 |NCID=BA75977282}}</ref>。
 
[[1590年]](天正18年)には徳川家康の命で[[江戸]]に[[井之頭池]]などを水源とする小石川上水(後の[[神田上水]])が整備され<ref name="sakai" /><ref name="utsunomiya" />、このときに施設の名称として「水道」が初めて登場したとされる<ref name="sakai" />。その後、江戸の人口増加に対応して、[[玉川上水]]、[[青山上水]]、[[本所上水|亀有上水]]、[[三田用水|三田上水]]、[[千川上水]]が整備され、「[[江戸の六上水]]」と称された<ref name="sakai" /><ref name="utsunomiya" />。
{|
|+ 世界市場での水道企業シェア
!国
!企業名
!給水人口
|-
|{{FRA}}
| [[w:en:Suez Environnement|スエズ]]
|1億2,500万人
|-
|{{FRA}}
| [[w:en:Veolia Environnement|ヴェオリア]]
|1億800万人
|-
|{{UK}}
| [[w:en:Thames Water|テームズウォーター]]
|7,000万人
|-
|{{FRA}}
| SAUR
|3,700万人
|-
|{{UK}}
| [[w:en:United Utilities|ユナイテッド・ユーティリティーズ]]
|2,000万人
|}
このような世界の流れを受けて日本でも[[2001年]]に[[水道法]]が改正され、水道事業の包括的な[[民間委託]]が可能となった<ref>厚生労働省 改正水道法の概要 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kaisei/gaiyo/index.html</ref>。また、2025年には世界全体で100兆円の市場となると言われている水道事業には、商社やメーカーだけでなく水道事業のノウハウを持つ自治体の水道局も参入へ向けた行動を起こしている<ref>日経 関西の水処理技術アピール 財界訪中団がフォーラム http://eco.nikkei.co.jp/news/today/article.aspx?id=NN002Y005+13042009</ref>。また、日本国内でも水道の民営化や包括的な委託の受け皿となるべく企業が設立されるとともに、一部の地方都市で実際に包括的な委託を受託した例もある<ref>ジャパンウォーター 三次市から浄水場を全面受託 http://www.japanwater.co.jp/newsrelease/press/2002-1111.html</ref>。
 
日本で現在も使われている中で最古の水道は、[[熊本県]][[宇土市]]に在る[[轟水源]]を水源とする[[轟泉自然公園#轟泉水道|轟泉水道]]で[[宇土藩]]初代藩主[[細川行孝]]が造り、[[寛文]]3年([[1663年]])に完成したものである。始めは丸い[[土管]]の[[水道管]]で造られていたが、完成後100年程して6代目藩主[[細川興文]]のとき丈夫で長持ちする石の水道管に改修され今日に至る。
しかし、日本国内では大規模な水道事業を民営化したり、運営全てを民間企業に委託(包括的委託)した例は無い。なお、浄水場の運転操作や保守点検等の一部分や、料金徴収など周辺事業を民間委託している例は多数あるが、これらは水道事業に関わる経営判断を含め多くの部分を民間に任せている欧米の方式とは異なっている。
 
日本で最初の近代水道は[[1885年]](明治18年)4月に起工し、[[1887年]](明治20年)9月に竣工した横浜水道である<ref name="sakai" /><ref name="utsunomiya" />。技術顧問としてイギリス人技師の[[ヘンリー・S・パーマー]]を招き、[[相模川]]の上流に水源を求めて建設に着手し、ろ過した水を消毒し、ポンプと鋳鉄管で市内に送水する設備を有していた<ref name="utsunomiya" />。
日本国内では経済的合理性や海外進出を考える商社やメーカー等の企業育成を考えて、水道企業を民営化したほうがよいとする意見や、水資源の公共性や水道の安定供給・安全性を考えて公営事業のままでよいとする意見など種々ある。また、一部の発展途上国での失敗例([[ボリビア]]の[[コチャバンバ水紛争]]等)を取り上げて民営化に反対する意見もある。
 
[[1890年]](明治23年)には法制度と財源の確保の裏付けとなる全16条からなる[[水道条例]]が制定され、これに先立って[[1888年]](明治21年)に制定された[[市制町村制]]により水道の市町村公営原則を法制化した<ref name="utsunomiya" />。日本各地では横浜に続き、函館([[1889年]])、秦野([[1890年]])<ref>{{Cite web |title=秦野の水道の歴史・曽屋水道記念公園 {{!}} 秦野市役所 |url=https://www.city.hadano.kanagawa.jp/www/contents/1568095165313/index.html |website=www.city.hadano.kanagawa.jp |access-date=2024-06-23}}</ref><ref group="注釈">秦野の曽屋水道は鉄管ではなく陶管で敷設したため近代水道ではなく”近代的”水道と表現される場合がある。また、住民らによって敷設された自営水道であった。</ref>、長崎([[1891年]])、大阪([[1895年]])、東京([[1898年]])、神戸([[1899年]])と近代水道の整備が進んだ<ref name="sakai" /><ref name="utsunomiya" />。
== 水源 ==
*表流水(河[[川]]・ダム)
*[[伏流水]]
*[[地下水]]
**浅[[井戸]]
**深井戸
**[[湧水]]
*[[海水淡水化|海水]]
 
日本に近代上水道が導入されたきっかけとしては[[コレラ]]などの[[伝染病]]への対策という面もあるが、多少なれど事業当事者にとっての[[利潤]]という面も無視できなかった。東京府水道の建設などは当時の[[政府]]/[[内務省 (日本)|内務省]]と当時の[[野党]]である[[改進党]]の思惑に、条約改正を目論む[[外務省]]が関わる東京改造計画が絡んだ{{Sfn|小野芳朗|2001|p=177}}。
== 構成要素 ==
 
*取水施設
日本では上水道網の導入が検討されていた明治中期、上水道が需要を集める保証は無かったとされている。特に湧水に恵まれた京都市などでは「京都の人がわざわざ金を払って水道を使うだろうか?」「使うだけの『水質』の魅力が水道にあるのか?」と甚だ疑問の目が向けられていた{{Sfn|小野芳朗|2001|p=144}}。
*浄水施設
 
*貯水施設
=== アメリカでの歴史 ===
*配水施設
アメリカ国内の水道事業は個人の井戸から発展したもので、[[1652年]]に[[マサチューセッツ州]][[ボストン]]に最初の水道事業体が発足した<ref name="jwrc-first">{{Cite journal |和書 |author=竹中勝信 |date=2011-01 |title=アメリカ合衆国の上下水道の概要(前編) |journal=水道 |volume=56 |issue=1 |publisher=水道技術研究センター |url=http://www.jwrc-net.or.jp/aswin/projects-activities/pdf_Usa_Ca/usa-outline_first.pdf |format=PDF |accessdate=2017-02-12}}</ref>。[[1832年]]には[[バージニア州]][[リッチモンド (バージニア州)|リッチモンド]]に最初の近代的な浄水場が建設された<ref name="jwrc-first" />。
*送水ポンプ
 
*導管
アメリカでは植民地時代から[[1850年]]頃まで民間による水道経営が主流となっていた<ref name="jwrc-first" />。しかし、富裕層が多く住む地域での給水に優先的に投資が行われていたこと、水道会社の利益が最大になるよう水道料金が設定されていたこと、水質への配慮が不十分であったことなどから公営の水道事業が徐々に増えていった<ref name="jwrc-first" />。また、19世紀に入って都市化が急速に発展するとともに[[コレラ]]や[[チフス]]などの水系伝染病が大流行したが、水道が未整備の地域で汚染された井戸水や河川表流水を人力で汲んで用いていたことが原因であることが明らかとなってからは、近代的な浄水場の建設や配水管・給水管の整備が進んだ<ref name="jwrc-first" />。
*水量計
 
== 世界の水道業 ==
=== 世界の水道企業 ===
欧州や米国では水道事業を民間に開放しているところもあり、必ずしも自治体が提供する公営事業とは限らない。[[イギリス]]や[[フランス]]、[[オランダ]]等のように水道事業を民間会社が行っているのが一般的な国もあり、これらの国の水道運営会社は世界各国にも進出している。水道世界3大企業はフランスの[[スエズ (2008年設立の企業)|スエズ]]と[[ヴェオリア・ウォーター]]、イギリスの[[テムズ・ウォーター]]である。このほかにも[[ベクテル]]のような建設関連企業が海外での水資源開発や水道事業の受託を行っている。
 
歴史的には、[[リヨン]]市の水道事業が民間委託化されたのが[[1853年]]であるが、欧米で民営化が広く行われるようになったのは20世紀に入ってからであった。2008年現在、全世界の水道供給人口50億人のうち、民営化された水道企業が水を供給しているのは4億人である<ref>{{Cite journal |和書 |author=猪本有紀 |date=2008-02 |title=寄稿 世界の水問題に取り組む商社 |journal=日本貿易会 月報 |issue=656 |url=http://www.jftc.or.jp/shoshaeye/contribute/contrib2008_02a.pdf |publisher=日本貿易会 |format=PDF |archiveurl=https://web.archive.org/web/20160304073622/http://www.jftc.or.jp/shoshaeye/contribute/contrib2008_02a.pdf |archivedate=2016-03-04}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=http://r25.jp/b/honshi/a/ranking_review_details/id/1112009042304 |title=100兆円の市場を争奪する世界の「水メジャー」って何者? |accessdate=2009-04-25 |date=2009-04-23 |work=R×R(ランキンレビュー) |website=R25.jp |publisher=リクルート |archiveurl=https://web.archive.org/web/20090426083359/http://r25.jp/b/honshi/a/ranking_review_details/id/1112009042304 |archivedate=2009-04-26 |url-status=dead|url-status-date=2016-07}}</ref>。パリでは1985年から2009年まで約25年間に民間が運営をしていた間に料金が2倍になったが、水道の漏水率が22%から4%と改善した。フランスでは他の自治体も民営化したが、9割は民間管理を更新した<ref name=":0">{{Cite web|和書|title=寿命超えボロボロ…日本の水道の悲惨な実態 {{!}} 週刊女性PRIME|url=https://toyokeizai.net/articles/-/255167|website=東洋経済オンライン|date=2018-12-20|accessdate=2020-04-27|language=ja}}</ref>。
 
{| class="wikitable"
|+ 世界市場での水道企業シェア
|-
! 国 !! 企業名 !! 給水人口
|-
| {{FRA}} || [[スエズ (2008年設立の企業)|スエズ]]
| style="text-align:right" | 1億2500万人
|-
| {{FRA}} || [[ヴェオリア・エンバイロメント|ヴェオリア]]
| style="text-align:right" | 1億{{0}}800万人
|-
| {{UK}} || [[テムズ・ウォーター]]
| style="text-align:right" | 7000万人
|-
| {{FRA}} || SAUR
| style="text-align:right" | 3700万人
|-
| {{UK}} || [[w:en:United Utilities|ユナイテッド・ユーティリティーズ]]
| style="text-align:right" | 2000万人
|}
 
=== 日本の上水道 ===
==== 水道事業の区分 ====
日本の[[水道法]]では「水道事業」を一般の需要に応じて水道により水を供給する事業のうち、給水人口が100人を超えるものとしている<ref name="soumu" />。この水道事業には上水道事業と簡易水道事業が含まれる<ref name="soumu">{{Cite web |url=https://www.soumu.go.jp/main_content/000144865.pdf |title=(3) 上水道施設|publisher=総務省|date= |accessdate=2024-02-25}}</ref>。
* 上水道事業 - 給水人口が5,001人以上の水道により、水を供給する水道事業<ref name="soumu" />。
* [[簡易水道]]事業 - 水道事業のうち給水人口が5,000人以下であるもの<ref name="soumu" />(水道法第3条第3号)
なお、上水道事業は法律用語として水道法に定義されているわけではなく、簡易水道事業(水道法第3条第3号で定義)以外の水道事業を指すために慣用的に用いられている概念である<ref name="soumu" />。
 
このほか水道法には、専用水道、簡易専用水道、水道用水供給事業(水道により水道事業者に対してその用水を供給する事業)も定義されているが、これらは水道事業とは別の区分である<ref name="soumu" />。
 
==== 水道施設の管理 ====
日本中に張り巡らされている水道管の全長は約66万キロメートル、地球16周分の長さになるが、水道管の耐用年数は約40年で60年以上たっているため、約2000か所毎日破裂している。水道管をすべて更新するには130年以上かかると計算されている<ref name=":0" />。
 
==== 水道事業の運営 ====
日本でも[[水道法]]が[[2001年]]に改正され、水道事業の包括的な[[民間委託]]が可能となった<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kaisei/gaiyo/index.html |title=改正水道法の概要 |accessdate=2009-04-25 |publisher=厚生労働省}}</ref>。
 
2025年には世界全体で100兆円の市場となると言われている水道事業には、商社やメーカーだけでなく水道事業のノウハウを持つ日本の自治体の[[水道局]]も参入へ向けた行動を起こしている<ref>{{Cite news |title=関西の水処理技術アピール 財界訪中団がフォーラム |newspaper=日経Ecolomy |date=2013-04-20 |url=http://eco.nikkei.co.jp/news/today/article.aspx?id=NN002Y005+13042009}}{{リンク切れ|date=2016-07}}</ref>。
 
日本国内でも水道の民営化や包括的な委託の受け皿となるべく企業が設立されるとともに、一部の地方都市で実際に包括的な委託を受託した例もある<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.japanwater.co.jp/business/operation_management/ |title=O&M事業の実績(抜粋) |accessdate=2016-07-06 |publisher=ジャパンウォーター |archiveurl=https://web.archive.org/web/20161116005347/http://www.japanwater.co.jp/business/operation_management/ |archivedate=2016-11-16 |deadlinkdate=2018-11-08}}</ref><ref>{{Cite press release |和書 |title=三次市から浄水場を全面受託 |publisher=ジャパンウォーター |date=2002-11-11 |url=http://www.japanwater.co.jp/newsrelease/press/2002-1111.html |archiveurl=https://archive.is/3NtG |archivedate=2012-08-02 |deadlinkdate=2016-07}}</ref>。しかし、日本国内では大規模な水道事業を民営化したり、運営全てを民間企業に委託(包括的委託)した例は無い。なお、浄水場の運転操作や保守点検等の一部分や、料金徴収など周辺事業を民間委託している例は多数あるが、これらは水道事業に関わる経営判断を含め多くの部分を民間に任せている欧米の方式とは異なっている。日本国内では経済的合理性や海外進出を考える商社やメーカー等の企業育成を考えて、水道企業を民営化したほうがよいとする意見や、水資源の公共性や水道の安定供給・安全性を考えて公営事業のままでよいとする意見など種々ある。しかし、国連テクニカルアドバイザー曰く、どのみち現行の水道料金は老朽化した水道管を維持するのに足りず、「水と安全はタダ」という日本的発想を料金を上げて赤字の現在を変えないといけないと警鐘を鳴らしている<ref name=":0" />。
 
=== アメリカの上水道 ===
アメリカ合衆国の水道事業体は、[[アメリカ合衆国環境保護庁|環境保護庁]](EPA)により、市町村水道、専用水道、季節専用水道の3つに分類されている<ref name="jwrc-second">{{Cite journal |和書 |author=竹中勝信 |year=2011-02 |title=アメリカ合衆国の上下水道の概要(中編) |journal=水道 |volume=56 |issue=2 |publisher=水道技術研究センター |url=http://www.jwrc-net.or.jp/aswin/projects-activities/pdf_Usa_Ca/usa-outline_second.pdf |format=PDF |accessdate=2017-02-12}}</ref>。
* 市町村水道(Community Water System(CWSs) - 1年を通じて定住人口に対し給水している水道事業体<ref name="jwrc-second" />
* 専用水道(Non-Transient Non-Community Water Systems(NTNCWSs) - 25人以上の定住人口に対して6か月以上給水している自家用水道(学校・工場等)の水道事業体<ref name="jwrc-second" />
* 季節専用水道(Transient Non-Community Water System(TNCWSs)) - 住居地域以外において移動人口に対して給水している自家用水道(ガソリンスタンド・キャンプ場等)の水道事業体<ref name="jwrc-second" />
 
== 水道水の水質 ==
水道水(家庭用炭酸化の有無にかかわらず)には、ボトル入りの水には含まれていない[[フッ化物]]が含まれている。フッ化物は[[虫歯]]の予防に大きな影響を及ぼし、口腔の健康を維持する上で不可欠であると考えられているため、これは重要である。ほとんどのボトル入り飲料水にはフッ化物が含まれていない<ref>{{Cite web|title=Water, water everywhere|url=https://www.health.harvard.edu/blog/water-water-everywhere-2016110310577|website=Harvard Health Blog|date=2016-11-03|accessdate=2020-11-10|language=en-US|first=Robert H. Shmerling|last=MD}}</ref>。ただし、2012年の時点では、[[アイルランド]]以外の西[[ヨーロッパ]]諸国には水道水フッ化物添加はほとんど行っていない<ref>{{Cite web|title=Water Fluoridation Status in Western Europe|url=https://fluoridealert.org/content/water_europe/|website=Fluoride Action Network|date=2012-08-08|accessdate=2020-11-10|language=en-US}}</ref><ref>{{Cite web|title=Statements from European Health, Water, & Environment Authorities on Water Fluoridation|url=http://fluoridealert.org/content/europe-statements/|website=Fluoride Action Network|date=2012-06-11|accessdate=2020-11-10|language=en-US}}</ref>。
 
=== 水道水が飲める国 ===
世界で水道水が飲める国は少なく、以下の16カ国が安全に水道水が飲めると言われている<ref>『水に流せない「水」の話』 ISBN 978-4041003831</ref>。
 
{{indent|
{{flatlist}}
* 日本
* アラブ首長国連邦
* オーストラリア
* ニュージーランド
* アイスランド
* アイルランド
* スウェーデン
* フィンランド
* ドイツ
* オーストリア
* クロアチア
* スロベニア
* モザンビーク
* レソト
* 南アフリカ
* カナダ
* フランス
{{endflatlist}}
}}
 
== 水質 ==
=== 水質基準 ===
==== WHO ====
[[世界保健機関]](WHO)では、各国が水質基準を設定する際の参考となるよう飲料水についての水質ガイドラインを定め勧告している<ref name="abroad04_02">{{Cite web|和書|url=http://www.jwrc-net.or.jp/chousa-kenkyuu/comparison/abroad04_02.pdf |title=日本と先進国との水質基準の比較に関する考察 |publisher=公益財団法人 水道技術研究センター |accessdate=2020-07-20}}</ref>。
==== 日本 ====
日本における[[水道法]](昭和32年6月15日法律第177号)が定める水質基準は、同法4条2項を受けて制定された[[水質基準に関する省令]](平成15年5月30日[[厚生労働省]]令第101号)および平成20年4月1日から施行されたその一部改正(平成19年11月14日厚生労働省令第135号)により、51項目の検査項目・検査方法及び基準値が定められている。同水質基準においては、たとえば[[カドミウム]]や[[水銀]]などについてそれぞれ許容値が定められており、[[大腸菌]](平成15年4月1日より従前の「大腸菌群数」から変更)は検出が許されない。これに適合しないと日本国内において「水道水」として供給できない。
 
水道法に基づく水質基準は日本国内に一律に適用され条例で変更することはできない<ref name="abroad04_02" />。
また、上記「水質基準」とは別に、水質基準に準じて検出状況を把握し、管理すべき項目として「水質管理目標設定項目」があり、農薬などの目標値が定められている。<ref>[http://www.waterworks.metro.tokyo.jp/w_info/s_kijun.htm 水質基準](東京都水道局)</ref>
 
また、上記「水質基準」とは別に、水質基準に準じて検出状況を把握し、管理すべき項目として「水質管理目標設定項目」があり、農薬などの目標値が定められている<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.waterworks.metro.tokyo.jp/suigen/kijun/index.html |title=水質基準 |accessdate=2007-04-04 |publisher=東京都水道局}}</ref>。
なお、[[日本水道協会]]が全国の水質検査結果を[[データベース]]化して公開している([[#外部リンク|外部リンクの節]]参照)。
 
なお、1980年代後半までは鉛製給水管が使用されたものの、水道水中への鉛の溶出が問題視されたため、近年は他の材質の給水管への取替えが進んでいる。しかし、[[2021年]](令和3年)度末時点で未だに約3,800kmの鉛製給水管が残っていると報告されている<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.jwwa.or.jp/info/pdf/suidou_statistics_r03.pdf |title=令和3年度 水道統計総論|accessdate=2024-05-03 |format=PDF |publisher=公益社団法人 日本水道協会}}</ref>。
日本の水道水は上記のような水準を満たすように検査が行われているため、世界でも珍しく問題なく水道水が飲める環境がととのっている。{{要出典|date=2011年2月18日|title=先進国であれば水道水が飲めることは珍しくないので、なにがどのように「世界でも珍しく」なのかを、文献等で明示していただきたい。}}
 
==== 高度処理技術米国 ====
米国では安全飲料水法(SDWA)で健康に関わる項目からなる第一種飲料水規則(NPDWR:National Primary DrinkingWater Regulations)と水道利用に関わる項目からなる第二種飲料水規則(NSDWR:National Secondary Drinking Water Regulations)が規定されている<ref name="abroad04_02" />。ただし、第二種飲料水規則には法的拘束力は無い<ref name="abroad04_02" />。
日本の上水道では蛇口地点で塩素が0.1mg/L以上含まれていなければならず、これによって大腸菌等のバクテリアの発生を防いでいる。水道の元となる取水した原水が十分に清浄であればこれだけで十分清潔な水道水が供給できるが、原水そのものが汚れたものであれば、多くの[[次亜塩素酸ナトリウム]]や[[次亜塩素酸カルシウム]]を加えて[[バクテリア]]を塩素殺菌する必要がある。この塩素は原水中の[[フミン質]]と呼ばれる主にバクテリア等の腐敗によって生じた多様な有機化合物群と反応して[[トリハロメタン]]と呼ばれるヒトの[[発ガン性物質]]が出来るので、塩素臭による不快感と共に、あまり水道中に加えることは出来ない。また、塩素に耐性を持つ特定の原虫が混入したりすることもあり、こういった汚れた原水で飲用の上水道を作る技術として、水の高度処理技術が生まれた。
 
==== EU ====
高度処理技術では微細な穴の開いた膜を通したり、活性炭を使用する、オゾンを吹き込むなどのコストの掛かる方法をとる<ref name = "小事典 暮らしの水"/>。[[シンガポール]]では2003年から、下水を逆浸透膜で浄化する高度濾過技術を使った「ニューウォーター」(NEWater)計画を進めている。
欧州委員会の定めたEU飲料水指令の基準を遵守しなければならず、さらに各国はそれより厳しい上乗せ基準を設定することができる<ref name="abroad04_02" />。
 
==== [[硬水]]と[[軟水]]オーストラリア ====
連邦政府の水質基準はガイドラインとされており、各州政府がその基準を義務とするか、目標とするか、それよりも厳しい基準にするか決定する権限をもつ<ref name="abroad04_02" />。
上水の元となる原水がミネラルを多く含めば、上水道で供給される水もそのままミネラル分の高いものとなる。ミネラル分の内でもカルシウムイオンとマグネシウムイオンの割合が高いものが硬水と呼ばれ、低いものが軟水と呼ばれる。通常はこの2つイオンの量を炭酸カルシウムに換算して、1リッター中に200mg以上含まれるものが硬水で100mg以下のものが軟水と呼ばれる。
 
=== 高度浄水処理 ===
欧州や中国の大部分は一般に硬水が多く、それに適した蒸し料理や油炒め料理、長時間煮込む料理が発達した。日本や米国は一般に軟水が多く、日本ではうまみを引き出した料理や緑茶が発達し、米国では欧州由来のコーヒーが本来の味を引き出せるために薄くなった<ref name = "小事典 暮らしの水"/>。
日本の上水道では、蛇口地点で塩素が0.1&nbsp;mg/L以上含まれていなければならず、これによって大腸菌等のバクテリアの発生を防いでいる。水道の元となる取水した原水が十分に清浄であればこれだけで十分清潔な水道水が供給できるが、原水そのものが汚れたものであれば、多くの[[次亜塩素酸ナトリウム]]や[[次亜塩素酸カルシウム]]を加えて[[バクテリア]]を[[塩素殺菌]]する必要がある。
 
この[[塩素]]は、原水中の[[フミン質]]と呼ばれる主にバクテリアの腐敗によって生じた、多様な有機化合物群と反応して[[トリハロメタン]]と呼ばれるヒトの[[発ガン性物質]]が出来るので、塩素臭による不快感と共に、あまり水道中に加えることは出来ない。また、塩素に耐性を持つ特定の原虫が混入したりすることもあり、こういった汚れた原水で飲用の上水道を作る技術として、水の高度処理技術が生まれた。
== 上水道の歴史 ==
水道のルーツは[[古代]][[地中海]]沿岸諸国とされる。当初は、深いところにある[[井戸]]の水を遠くに運ぶための[[水路]]であったと考えられている。[[古代ローマ|古代ローマ人]]は後世「[[ローマ水道]]」と呼ばれることになる巨大なネットワークを構築したが、[[中世]]以後衰微する。
 
[[高度浄水処理]]では、微細な穴の開いた膜を通したり、活性炭を使用する、[[オゾン]]を吹き込むなどのコストの掛かる方法をとる{{Sfn|建築設備技術者協会|2002}}。[[シンガポール]]では2003年から、下水を逆浸透膜で浄化する高度濾過技術を使った「ニューウォーター」(NEWater)計画を進めている。([[日本]]の[[東京都]]では、既に行われている)
日本では、[[16世紀]]半ば、[[北条氏康]]の小田原支配時に[[早川 (神奈川県)|早川]]から水を引き、[[小田原城]]下に飲用として供した[[小田原早川上水]]が最古の水道と考えられている。[[豊臣秀吉]]の[[小田原の役|小田原攻め]]に参陣した諸大名たちは、この上水を見て、自領の上水開設の参考にしたものと考えられている<ref>石井啓文『小田原の郷土史再発見』夢工房、[[2001年]]。</ref>。[[徳川家康]]もその一人で、[[1600年]]頃の[[江戸]]の都市建設のために[[井之頭池]]から引いた[[神田上水]]をはじめ、その後、[[玉川上水]]、[[千川上水]]などが江戸の町に引かれていった(後に[[青山上水|青山]]・[[本所上水|亀有]](本所)・[[三田用水|三田]]の3つを加えて[[江戸の六上水|「六上水」]]と称した)。現代から見れば、浄水施設や各戸給水がないという問題点があったものの、当時世界でもっとも進んだ設備を有していた。日本で現在も使われている最古の水道は、[[熊本県]][[宇土市]]に在る[[轟水源]]を水源とする[[轟泉水道]]で[[宇土藩]]初代藩主[[細川行孝]]が造り[[寛文]]3年([[1663年]])に完成したものである。始めは丸い[[土管]]の[[水道管]]で造られていたが、完成後100年程して6代目藩主[[細川興文]]のとき丈夫で長持ちする石の水道管に改修され今日に至る。
 
=== [[硬水]]と[[軟水]] ===
[[画像:HS Palmer.JPG|thumb|220px|right|ヘンリー・スペンサー・パーマー胸像(近代水道発祥の地、横浜市野毛山公園)]]
上水の元となる原水がミネラルを多く含めば、上水道で供給される水もそのままミネラル分の高いものとなる。ミネラル分の内でもカルシウムイオンとマグネシウムイオンの割合が高いものが硬水と呼ばれ、低いものが軟水と呼ばれる。通常はこの2つイオンの量を炭酸カルシウムに換算して、1リッター中に200&nbsp;mg以上含まれるものが硬水で100&nbsp;mg以下のものが軟水と呼ばれる。
水道の近代化は[[1787年]]の[[パリ]]で蒸気式揚水用ポンプが使われ、[[1829年]]に[[ロンドン]]で[[砂濾過池]]による浄水設備の設置以降のことであり、鉄製パイプによる[[水道管]]の開発など[[19世紀]]の[[ヨーロッパ]]で急速に発達した。
 
欧州や中国の大部分は一般に硬水が多く、それに適した蒸し料理や油炒め料理、長時間煮込む料理が発達した。日本や米国は一般に軟水が多く、日本ではうまみを引き出した料理や緑茶が発達し、米国では欧州由来のコーヒーが本来の味を引き出せるために薄くなった{{Sfn|建築設備技術者協会|2002}}。
日本の近代的水道は、[[1887年]](明治20年)[[10月17日]]に、[[横浜市|横浜]]の[[外国人居留地]]で給水されたのが始まりである。当時居留地では、井戸を掘っても塩水が混じり、飲用に適さなかった。そこで当時の[[神奈川県]]知事は、英国陸軍工兵大佐の技師H.S.パーマーを顧問に招き、資材も英国からの輸入に頼る形で、[[相模川]]の上流に水源を求めて近代水道の建設に着手した。[[1885年]](明治18年)に始められた工事は、1887年(明治20年)9月に竣工し、翌月から給水が始められた。近代水道は、1890年(明治23年)に水道の全国普及と水道事業の市町村による経営を内容とする[[水道条例]]が制定されたことにより、都市部で急速に実用化された。旧来の水道設備が充実していたために整備が遅れていた[[東京]]でも、[[1898年]](明治31年)には[[多摩川]]から[[淀橋浄水場]]を経由して、市内へと配水する設備が完成した。
 
== 上水道の逆流事故 ==
{{出典の明記|date=2024年2月|section=1}}
=== 逆流事故 ===
[[1933年]]、[[アメリカ合衆国|米国]]の[[シカゴ万国博覧会 (1933年)|シカゴ万博]]会場の[[ホテル]]で浴槽と便器の水が給水管内に逆流し、1,409名が[[アメーバ赤痢]]に罹患し、98名が死亡した<ref>[[アメリカ合衆国環境保護庁]]  Cross-Connection Control Manual</ref> 。[[1948年]]に日本でも逆流事故によって腸[[チフス]]患者が550名発生し、3名が死亡した。これらの事故をはじめ多くの水道による事故の経験から、日本では「水道法」と「建築基準法」が、'''水槽、プール、流しその他水を入れ、又は受ける器具、施設等に給水する給水装置にあつては逆流を防止するための適当な措置を講じること'''を求めている。
逆流を防止するためには、水道蛇口を浴槽や台所シンク等の容器の縁より十分上方に離して設置して「エアギャップ」を確保することが有効である。これは、エアギャップによって、水道管内の圧力が断水などによって負圧となった時に管内に汚水が取り込まれる「逆サイフォン現象」を防ぐことが出来るからである。
[[集合住宅]]などでシャワーヘッドを湯水の入った浴槽内に漬けていると、万が一、断水などで管内が負圧になり、この時シャワーのコックを開けると、逆サイフォン現象によって不衛生な水が上水道管内に取り込まれてしまうので注意が必要である。
 
=== 逆流防止に対応する器具 ===
構造的に水道の吐出口が容器内に開口するフラッシュバルブ式大便器のような水回り器具ではエアギャップを確保することが不可能なために、「バキュームブレーカー」という逆サイフォン現象を防止するための仕組みを備えるものがある。大気圧式バキュームブレーカーでは大気圧と管内との差圧によって逆流を防止する仕組みとなっているため、逆流防止弁より確実に機能する。
 
=== クロスコネクション ===
 
日本において、「水道法」と「建築基準法」は、上水配管とその他の用途の配管を直接接続することを禁じている。これは、上水側の圧力が何かの理由でなくなった場合やその他の配管の圧力が上昇した場合、上水側に逆流する恐れがあるからである。これを「[[クロスコネクション]]の禁止」という。
 
アメリカにおいては、多くのクロスコネクションが存在し、事故を防ぐために逆流防止弁が開発され、逆流を阻止するように設計されているが、劣化やゴミが挟まるなどの機能喪失は完全には防ぎきれない。そのため、多くの逆流事故が起きている。
 
== 上水道の汚染事故 ==
 
=== クリプトスポリジウム ===
[[1993年]]に米国[[ミルウォーキー]]で原虫の[[クリプトスポリジウム]]による上水道の汚染があり、40万人の感染者と400名の死者を出した。また、日本においても1996年に埼玉県越生町で8812名の感染があった。この5μm程の大きさの微生物は上水道の通常の消毒に用いられる程度の塩素濃度では死滅しないため、日本を含めた多くの国の上水道ではこの原虫の混入がないように随時注意が払われている。コストを掛けて濾過フィルターを設置している水道事業者もある<ref name = "小事典 暮らしの水">{{Sfn|建築設備技術者編 『小事典 暮らしの水』 講談社 |2002年8月20日第1版発行 ISBN 4062573792</ref>}}
 
=== カシン・ベック病 ===
[[カシン・ベック病]]は19世紀にカシンおよびベックによりシベリアにみられる地方病として報告された骨変形などを主症状とする疾患である<ref name="No.802">{{Cite web|和書|url=https://h-crisis.niph.go.jp/?p=83615 |title=No.802 水道水とカシンベック病 |publisher=国立保健医療科学院|accessdate=2020-07-20}}</ref>。水道水に含まれるフェルラ酸、パラドキシ桂皮酸、カフェイン酸等の有機物質が原因と考えられている<ref name="No.802" />。
 
===取水施設への汚水混入===
*[[川崎市の赤痢 (1935年)|川崎市の赤痢]]([[1935年]]1月)
*[[大牟田爆発赤痢事件]]([[1937年]]9月)
*[[茂原下痢症]]([[1953年]]6月)
 
== 脚注 ==
 
=== 注釈 ===
<references group="注釈" />
 
=== 出典 ===
{{reflist脚注ヘルプ}}
{{reflist|2}}
 
== 関連項目 ==
*[[簡易水道]]、[[工業用水道]]、[[用水路]]
*[[水道局]]
*[[中水道]](雑用水)
*[[下水道]]
*[[簡易水道]]
*[[飲料水供給施設]]
*[[工業用水道]]
*[[用水路]]
*[[水道水フッ化物添加]]
<!--*[[横浜水道記念館]]([[陣ヶ下渓谷]]) - [[1987年]](昭和62年)開設。[[1887年]](明治20年)に出来た[[日本]]最初の近代的水道「横浜水道」の[[博物館]]。-->
*[[指定工事店]]
*[[キッコーマン]] - [[1922年]]から[[1975年]]まで、[[野田市]]内で一般家庭に対し上水道の供給を行っていた。
*[[ローマ水道]]
* {{ill2|ユーティリティの場所|en|Utility location}} - ガス・電線・電話線・上水道・下水道など埋設物についての場所。アメリカ、オーストラリア等では地上でも分かるようにカラーコードが示されている。
*[[小田原早川上水]]
*[[神田上水]]
*[[玉川上水]]
 
== 参考文献 ==
* {{Cite book |和書 |author=小野芳朗 |year=2001 | title=水の環境史「京の名水」はなぜ失われたか |series=PHP新書 |publisher=PHP研究所 |ISBN=978-4-5696-1618-6 |ref=harv}}
* 給排水設備研究会20周年事業出版委員会編 『水とあゆむ 給排水衛生設備30年の軌跡と未来』(給排水設備研究会)
* {{Cite book |和書 |author=建築設備技術者協会(編) |year=2002 | date=2002-08-20 |title=小事典 暮らしの水 |edition=第1版 |publisher=講談社 |ISBN=4-062-57379-2 |ref={{SfnRef|建築設備技術者協会|2002}}}}
* {{Cite book |和書 |author=給排水設備研究会20周年事業出版委員会(編) |year=2003 | title=水とあゆむ 給排水衛生設備30年の軌跡と未来 |publisher=給排水設備研究会}}
* [http://library.jsce.or.jp/Image_DB/s_book/jsce100/htm/029.htm 土木デジタルアーカイブ 森 慶三郎著 『最近上水道』 丸善 大正12年発行]
* [http://library.jsce.or.jp/Image_DB/s_book/jsce100/htm/036.htm 土木デジタルアーカイブ 草間 偉著 『上下水道(萬有科学大系、続篇12巻、第21編)』 誠文堂 昭和4年発行]
* [http://library.jsce.or.jp/Image_DB/s_book/jsce100/htm/070.htm 土木デジタルアーカイブ 広瀬 孝六郎著 『上下水道』 山海堂 昭和17年発行]
 
== 外部リンク ==
* [http://www.jwwa.or.jp/ 公益社団法人日本水道協会]
** [http://www.jwwa.or.jp/mizu/ 水道水質データベース]
*[http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%90%85%93%b9%96%40&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S32HO177&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1 法令データ提供システム - 水道法]
* {{Egov law|332AC0000000177|水道法}}
*[http://www.jwwa.or.jp/mizu/ 水道水質データベース]
*[http://www.city.uto.kumamoto.jp/syoukou/kankou/spot/02suigen.html 轟水源と轟泉水道(ごうせんすいどう)]
 
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:しようすいとう}}
[[category:水道|*しようすいとう]]
154 ⟶ 219行目:
[[category:公衆衛生]]
[[Category:都市計画]]
 
[[da:Vandhanevand]]
[[de:Leitungswasser]]
[[en:Tap water]]
[[es:Agua entubada]]
[[fr:Eau du robinet]]
[[ko:상수도]]
[[nl:Leidingwater]]
[[pl:Woda wodociągowa]]
[[sv:Kranvatten]]
[[th:น้ำประปา]]
[[zh:自来水]]