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'''誤報'''(ごほう、英:misinformation)は、誤った[[情報]]や、[[報告]]および[[報道]]。この項では[[マスコミ]]によるそれを主に扱う。誤報にもさまざまな種類があり、中には必ずしも「誤った報道」とは言いきれないレベルのものもある。誤報に関する書籍(参考文献を参照)では、次のようなものを「誤報」として扱っている。 |
'''誤報'''(ごほう、英:misinformation)は、誤った[[情報]]や、[[報告]]および[[報道]]。この項では[[マスコミ]]によるそれを主に扱う。誤報にもさまざまな種類があり、中には必ずしも「誤った報道」とは言いきれないレベルのものもある。誤報に関する書籍(参考文献を参照)では、次のようなものを「誤報」として扱っている。 |
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==誤報の種類== |
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名称や肩書、数字(年齢<ref>年齢を偽っている著名人は少なくない。ある新聞が某劇作家の本当の年齢を書いたところ、その人物の周辺から抗議を受けたという。後藤文康『誤報』105-106頁を参照。</ref>、電話番号、金額等)の誤り、写真の取り違え(例:Aという人物として紹介した写真が、実はBという人物のものだった)、誤訳といったものをここに分類する。城戸又一編『誤報』では、「衛生都市」(衛生→衛星)、「天丼を焼いただけで鎮火」(天丼→天井)、「秋の股のお手入れ」(股→肌)、「国家予算3円」(3円→3兆円)などといった[[誤植]]を「誤報」として扱っている。これらのミスは後の項目に比べると程度の小さいものとされ、この手のものが「誤報」の中で最も頻度の高いものとされている(後藤文康『誤報』103頁)。もちろん、単純なミスであるからといって、記事の影響が必ずしも軽微というわけではない。電話番号を誤って記載した場合は間違い電話の被害者を生むことにつながるし、株価の場合は株式市場に深刻な影響をもたらしかねない。 |
名称や肩書、数字(年齢<ref>年齢を偽っている著名人は少なくない。ある新聞が某劇作家の本当の年齢を書いたところ、その人物の周辺から抗議を受けたという。後藤文康『誤報』105-106頁を参照。</ref>、電話番号、金額等)の誤り、写真の取り違え(例:Aという人物として紹介した写真が、実はBという人物のものだった)、誤訳といったものをここに分類する。城戸又一編『誤報』では、「衛生都市」(衛生→衛星)、「天丼を焼いただけで鎮火」(天丼→天井)、「秋の股のお手入れ」(股→肌)、「国家予算3円」(3円→3兆円)などといった[[誤植]]を「誤報」として扱っている。これらのミスは後の項目に比べると程度の小さいものとされ、この手のものが「誤報」の中で最も頻度の高いものとされている(後藤文康『誤報』103頁)。もちろん、単純なミスであるからといって、記事の影響が必ずしも軽微というわけではない。電話番号を誤って記載した場合は間違い電話の被害者を生むことにつながるし、株価の場合は株式市場に深刻な影響をもたらしかねない。 |
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近年は原稿入力の電子化によりタイプミスが出ている([[産経新聞]]電子版がこのミスが多い事で有名。かな入力のままでキーボード最上段の数字まで打ち、それを校閲しない為に「1979年」が「ぬよやよ年」のまま表示されている、「北海道千歳市」を「―1000歳市」のまま掲載するなど)。 |
近年は原稿入力の電子化によりタイプミスが出ている([[産経新聞]]電子版がこのミスが多い事で有名。かな入力のままでキーボード最上段の数字まで打ち、それを校閲しない為に「1979年」が「ぬよやよ年」のまま表示されている、「北海道千歳市」を「―1000歳市」のまま掲載するなど)。 |
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===情報提供者、取材対象者からの情報=== |
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情報元が誤った情報を発信し、そのまま報道したため誤報となったケース。映画館が上映時間を誤って新聞社にFAXした、博物館のチラシにある企画展の期間が間違っていた、といったパターンがよく見られる。これらは厳密に言えば責任は発信者側にあるが、読者(もしくは視聴者)に誤った情報を提供したという意味では報道機関の責任でもある。 |
情報元が誤った情報を発信し、そのまま報道したため誤報となったケース。映画館が上映時間を誤って新聞社にFAXした、博物館のチラシにある企画展の期間が間違っていた、といったパターンがよく見られる。これらは厳密に言えば責任は発信者側にあるが、読者(もしくは視聴者)に誤った情報を提供したという意味では報道機関の責任でもある。 |
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===無知によるもの=== |
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===単独スクープ=== |
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いわゆる「飛ばし」によるもの。スクープをものにするには、取材対象や他のマスコミに気づかれないよう秘密裡に調査が行われる必要があり、裏付け調査が不充分な状態でも一定の信憑性があると判断された時点で見切り発車することになる。 |
いわゆる「飛ばし」によるもの。スクープをものにするには、取材対象や他のマスコミに気づかれないよう秘密裡に調査が行われる必要があり、裏付け調査が不充分な状態でも一定の信憑性があると判断された時点で見切り発車することになる。 |
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[[企業合併]]では、経営トップ同士が合意に至ったとしても合併が成立するとは限らない。正式発表の前には有力[[株主]]や[[労働組合]]、政府機関の合意を取り付ける必要があるのだが、それが不充分な状態で報道された場合、社内外からの反対により合併が破談になることがある。その場合、報じられた時点では誤報とはいえないものの、結果的には誤報となる。 |
[[企業合併]]では、経営トップ同士が合意に至ったとしても合併が成立するとは限らない。正式発表の前には有力[[株主]]や[[労働組合]]、政府機関の合意を取り付ける必要があるのだが、それが不充分な状態で報道された場合、社内外からの反対により合併が破談になることがある。その場合、報じられた時点では誤報とはいえないものの、結果的には誤報となる。 |
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===予定稿=== |
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裁判や試合などのように「いつ起きるか分かっているできごと」、あるいは高齢の著名人の死亡のように「いつかは起こるできごと」の場合、報道の世界では、事前に記事を用意しておくという習慣がある(天皇崩御の際の「[[Xデー]]稿」は有名である)。このような事前に書かれた原稿を'''予定稿'''と呼ぶ。選挙の当落のように、記事の種類によっては複数の予定稿が書かれることがある。もちろん新聞に掲載するに当たって数値などで多少の修正は行われるが、最初から記事を書く場合に比べて時間が節約できるため、速報性の向上につながる。また、記事のチェックを事前に余裕を持って行うことができるため、誤報を予防することができるというメリットもある。 |
裁判や試合などのように「いつ起きるか分かっているできごと」、あるいは高齢の著名人の死亡のように「いつかは起こるできごと」の場合、報道の世界では、事前に記事を用意しておくという習慣がある(天皇崩御の際の「[[Xデー]]稿」は有名である)。このような事前に書かれた原稿を'''予定稿'''と呼ぶ。選挙の当落のように、記事の種類によっては複数の予定稿が書かれることがある。もちろん新聞に掲載するに当たって数値などで多少の修正は行われるが、最初から記事を書く場合に比べて時間が節約できるため、速報性の向上につながる。また、記事のチェックを事前に余裕を持って行うことができるため、誤報を予防することができるというメリットもある。 |
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ここでは、その予定稿を起因とした誤報のケースを挙げる。 |
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*[[1926年]] - [[光文事件]]。 |
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*[[1955年]] - セイロン(現在の[[スリランカ]])で[[皆既日食]]の観測に[[共同通信]]が「成功」(実際には失敗)。 |
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*[[1994年]] - [[リレハンメルオリンピック|リレハンメル冬季五輪]]のさなか、[[朝日新聞]]が「[[ボスニア]]、半旗の入場」と報道(実際には半旗ではなかった)。 |
* [[1994年]] - [[リレハンメルオリンピック|リレハンメル冬季五輪]]のさなか、[[朝日新聞]]が「[[ボスニア]]、半旗の入場」と報道(実際には半旗ではなかった)。 |
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ネット配信のニュースにおいて、予定稿が誤って閲覧可能な状態になってしまい、結果的に誤報となった例がある([[2007年]]10月、[[時事通信]]の“[[双津竜順一|時津風親方]]、退職届提出”。実際には解雇となった。担当者は処分されている)。短時間でミスに気づいて削除されることが多いが、[[RSS]]の普及に伴い誤報が人目に触れる危険性が高まっている。 |
ネット配信のニュースにおいて、予定稿が誤って閲覧可能な状態になってしまい、結果的に誤報となった例がある([[2007年]]10月、[[時事通信]]の“[[双津竜順一|時津風親方]]、退職届提出”。実際には解雇となった。担当者は処分されている)。短時間でミスに気づいて削除されることが多いが、[[RSS]]の普及に伴い誤報が人目に触れる危険性が高まっている。 |
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===犯罪報道=== |
=== 犯罪報道 === |
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犯罪報道において、特定の人物を犯人だと読者に印象づける報道がしばしば見られるものだが、犯人扱いされた人物が実際には犯行に関わっていなかったことが明らかになったり、裁判で無罪になった場合をここで扱う。[[1968年]]に起きた[[三億円事件]]においては、翌年末に脅迫の容疑で別件逮捕された青年が、マスコミによって強奪事件の[[犯人]]であるかのような扱いを受けた。すぐに青年のアリバイが証明され釈放されたものの、新聞には男性の経歴や家族、交友関係などが詳しく記載されたため、無実と分かった後も好奇の目にさらされ続けたという。[[1974年]]の[[松戸OL殺人事件]]では、別件の窃盗罪で逮捕された後に、同事件に対する殺人・死体遺棄などの罪で起訴された男性について、マスコミはそれまでに発生していた首都圏11人女性殺害事件との関連をほのめかし続けた。「おわび」や「訂正」が出されたのは東京高裁において、殺人などについての無罪判決が出された後、およびそれが確定した後([[1991年]])のことである<ref>市民団体の支援を受け、無罪釈放となった元被告は、“無実のヒーロー”、“冤罪事件の被害者”ともてはやされた。しかし、そのわずか5年後の1996年1月、東京都足立区で発生した首なし焼死体殺人事件の容疑者として逮捕され犯行を自供、1999年2月、無期懲役が確定した。なお、松戸OL殺人事件での弁護人は「当時口が裂けても言えなかったが一審の途中から元被告を疑い始めていた」と告白している。 |
犯罪報道において、特定の人物を犯人だと読者に印象づける報道がしばしば見られるものだが、犯人扱いされた人物が実際には犯行に関わっていなかったことが明らかになったり、裁判で無罪になった場合をここで扱う。[[1968年]]に起きた[[三億円事件]]においては、翌年末に脅迫の容疑で別件逮捕された青年が、マスコミによって強奪事件の[[犯人]]であるかのような扱いを受けた。すぐに青年のアリバイが証明され釈放されたものの、新聞には男性の経歴や家族、交友関係などが詳しく記載されたため、無実と分かった後も好奇の目にさらされ続けたという。[[1974年]]の[[松戸OL殺人事件]]では、別件の窃盗罪で逮捕された後に、同事件に対する殺人・死体遺棄などの罪で起訴された男性について、マスコミはそれまでに発生していた首都圏11人女性殺害事件との関連をほのめかし続けた。「おわび」や「訂正」が出されたのは東京高裁において、殺人などについての無罪判決が出された後、およびそれが確定した後([[1991年]])のことである<ref>市民団体の支援を受け、無罪釈放となった元被告は、“無実のヒーロー”、“冤罪事件の被害者”ともてはやされた。しかし、そのわずか5年後の1996年1月、東京都足立区で発生した首なし焼死体殺人事件の容疑者として逮捕され犯行を自供、1999年2月、無期懲役が確定した。なお、松戸OL殺人事件での弁護人は「当時口が裂けても言えなかったが一審の途中から元被告を疑い始めていた」と告白している。 |
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[http://www.nishinippon.co.jp/news/2005/sengo60/sengo7/05.html 2005年12月26日付西日本新聞「再考 来た道行く道<5>煩悶 逆転無罪と新たな悲劇―連載」]。しかしながら、日本国憲法39条に定められた[[一事不再理]]は刑事裁判の基本原則であるため、両事件を法理論上、関連付けることはできない。</ref>。また、[[1994年]]の[[松本サリン事件]]では、マスコミによって、1人の人物が逮捕、起訴されていないにも拘らず、約1年のあいだにわたって[[犯人]]視され続けた。いずれの報道にも共通するものとして、警察発表や、捜査員からの非公式な情報をさして[[裏づけ]]を取ることもなく記事にしたり、記事をことさらセンセーショナルなものにしがちな[[マスコミ]]の姿勢が挙げられる。また、松本サリン事件の報道の反省として述べられていたものに以下がある。 |
[http://www.nishinippon.co.jp/news/2005/sengo60/sengo7/05.html 2005年12月26日付西日本新聞「再考 来た道行く道<5>煩悶 逆転無罪と新たな悲劇―連載」]。しかしながら、日本国憲法39条に定められた[[一事不再理]]は刑事裁判の基本原則であるため、両事件を法理論上、関連付けることはできない。</ref>。また、[[1994年]]の[[松本サリン事件]]では、マスコミによって、1人の人物が逮捕、起訴されていないにも拘らず、約1年のあいだにわたって[[犯人]]視され続けた。いずれの報道にも共通するものとして、警察発表や、捜査員からの非公式な情報をさして[[裏づけ]]を取ることもなく記事にしたり、記事をことさらセンセーショナルなものにしがちな[[マスコミ]]の姿勢が挙げられる。また、松本サリン事件の報道の反省として述べられていたものに以下がある。 |
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*速報性を重視するあまり情報のチェックが不十分であったこと。 |
* 速報性を重視するあまり情報のチェックが不十分であったこと。 |
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*マスコミ同士の[[競争]]の中で他社に抜かれたくないという[[思い]]があったこと。 |
* マスコミ同士の[[競争]]の中で他社に抜かれたくないという[[思い]]があったこと。 |
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*他社が記事にしているからこちらも載せて大丈夫だろうという姿勢があったこと。 |
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何らかの過失により事実と異なる報道がなされる誤報と違って、虚報、ないしは虚偽報道では故意に事実と異なる報道がなされる。従来、虚報は誤報の文脈で語られてきたが、明確にこれと区別する必要があろう。詳細は[[虚偽報道]]の項を参照されたい。 |
何らかの過失により事実と異なる報道がなされる誤報と違って、虚報、ないしは虚偽報道では故意に事実と異なる報道がなされる。従来、虚報は誤報の文脈で語られてきたが、明確にこれと区別する必要があろう。詳細は[[虚偽報道]]の項を参照されたい。 |
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==マスコミ以外が発信者の誤報== |
== マスコミ以外が発信者の誤報 == |
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なお、マスコミ以外の発信者としては、次の3つに分類することができる。 |
なお、マスコミ以外の発信者としては、次の3つに分類することができる。 |
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#マスコミ以外の組織(会社や団体)によるもの。 |
# マスコミ以外の組織(会社や団体)によるもの。 |
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2による誤報の例は、山でのキャンプファイアーを誰かが山火事だと思って消防署に連絡するといったもの。セキュリティ機器が、異常事態が発生していないにも拘らず、何らかの原因で警報を鳴らすケースは3に含まれる。 |
2による誤報の例は、山でのキャンプファイアーを誰かが山火事だと思って消防署に連絡するといったもの。セキュリティ機器が、異常事態が発生していないにも拘らず、何らかの原因で警報を鳴らすケースは3に含まれる。 |
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2008年7月15日 (火) 23:07時点における版
誤報(ごほう、英:misinformation)は、誤った情報や、報告および報道。この項ではマスコミによるそれを主に扱う。誤報にもさまざまな種類があり、中には必ずしも「誤った報道」とは言いきれないレベルのものもある。誤報に関する書籍(参考文献を参照)では、次のようなものを「誤報」として扱っている。
誤報の種類
単純なミス
名称や肩書、数字(年齢[1]、電話番号、金額等)の誤り、写真の取り違え(例:Aという人物として紹介した写真が、実はBという人物のものだった)、誤訳といったものをここに分類する。城戸又一編『誤報』では、「衛生都市」(衛生→衛星)、「天丼を焼いただけで鎮火」(天丼→天井)、「秋の股のお手入れ」(股→肌)、「国家予算3円」(3円→3兆円)などといった誤植を「誤報」として扱っている。これらのミスは後の項目に比べると程度の小さいものとされ、この手のものが「誤報」の中で最も頻度の高いものとされている(後藤文康『誤報』103頁)。もちろん、単純なミスであるからといって、記事の影響が必ずしも軽微というわけではない。電話番号を誤って記載した場合は間違い電話の被害者を生むことにつながるし、株価の場合は株式市場に深刻な影響をもたらしかねない。
近年は原稿入力の電子化によりタイプミスが出ている(産経新聞電子版がこのミスが多い事で有名。かな入力のままでキーボード最上段の数字まで打ち、それを校閲しない為に「1979年」が「ぬよやよ年」のまま表示されている、「北海道千歳市」を「―1000歳市」のまま掲載するなど)。
情報提供者、取材対象者からの情報
情報元が誤った情報を発信し、そのまま報道したため誤報となったケース。映画館が上映時間を誤って新聞社にFAXした、博物館のチラシにある企画展の期間が間違っていた、といったパターンがよく見られる。これらは厳密に言えば責任は発信者側にあるが、読者(もしくは視聴者)に誤った情報を提供したという意味では報道機関の責任でもある。
無知によるもの
この節の加筆が望まれています。 |
単独スクープ
いわゆる「飛ばし」によるもの。スクープをものにするには、取材対象や他のマスコミに気づかれないよう秘密裡に調査が行われる必要があり、裏付け調査が不充分な状態でも一定の信憑性があると判断された時点で見切り発車することになる。
一旦報じられればその後はオープンな調査が行えるが、事前調査では掴めなかった事実が明らかになり、記事の内容は事実に反していたと判明する場合がある。
検察による強制捜査などが予定されていた場合、事前に報じられると捜査対象の逃亡や証拠隠滅のおそれがある為、事前にマスコミにリークし、実施前の公表を控えるよう依頼することがある。
企業合併では、経営トップ同士が合意に至ったとしても合併が成立するとは限らない。正式発表の前には有力株主や労働組合、政府機関の合意を取り付ける必要があるのだが、それが不充分な状態で報道された場合、社内外からの反対により合併が破談になることがある。その場合、報じられた時点では誤報とはいえないものの、結果的には誤報となる。
予定稿
裁判や試合などのように「いつ起きるか分かっているできごと」、あるいは高齢の著名人の死亡のように「いつかは起こるできごと」の場合、報道の世界では、事前に記事を用意しておくという習慣がある(天皇崩御の際の「Xデー稿」は有名である)。このような事前に書かれた原稿を予定稿と呼ぶ。選挙の当落のように、記事の種類によっては複数の予定稿が書かれることがある。もちろん新聞に掲載するに当たって数値などで多少の修正は行われるが、最初から記事を書く場合に比べて時間が節約できるため、速報性の向上につながる。また、記事のチェックを事前に余裕を持って行うことができるため、誤報を予防することができるというメリットもある。
ここでは、その予定稿を起因とした誤報のケースを挙げる。
- 1926年 - 光文事件。
- 1955年 - セイロン(現在のスリランカ)で皆既日食の観測に共同通信が「成功」(実際には失敗)。
- 1994年 - リレハンメル冬季五輪のさなか、朝日新聞が「ボスニア、半旗の入場」と報道(実際には半旗ではなかった)。
ネット配信のニュースにおいて、予定稿が誤って閲覧可能な状態になってしまい、結果的に誤報となった例がある(2007年10月、時事通信の“時津風親方、退職届提出”。実際には解雇となった。担当者は処分されている)。短時間でミスに気づいて削除されることが多いが、RSSの普及に伴い誤報が人目に触れる危険性が高まっている。
犯罪報道
犯罪報道において、特定の人物を犯人だと読者に印象づける報道がしばしば見られるものだが、犯人扱いされた人物が実際には犯行に関わっていなかったことが明らかになったり、裁判で無罪になった場合をここで扱う。1968年に起きた三億円事件においては、翌年末に脅迫の容疑で別件逮捕された青年が、マスコミによって強奪事件の犯人であるかのような扱いを受けた。すぐに青年のアリバイが証明され釈放されたものの、新聞には男性の経歴や家族、交友関係などが詳しく記載されたため、無実と分かった後も好奇の目にさらされ続けたという。1974年の松戸OL殺人事件では、別件の窃盗罪で逮捕された後に、同事件に対する殺人・死体遺棄などの罪で起訴された男性について、マスコミはそれまでに発生していた首都圏11人女性殺害事件との関連をほのめかし続けた。「おわび」や「訂正」が出されたのは東京高裁において、殺人などについての無罪判決が出された後、およびそれが確定した後(1991年)のことである[2]。また、1994年の松本サリン事件では、マスコミによって、1人の人物が逮捕、起訴されていないにも拘らず、約1年のあいだにわたって犯人視され続けた。いずれの報道にも共通するものとして、警察発表や、捜査員からの非公式な情報をさして裏づけを取ることもなく記事にしたり、記事をことさらセンセーショナルなものにしがちなマスコミの姿勢が挙げられる。また、松本サリン事件の報道の反省として述べられていたものに以下がある。
- 速報性を重視するあまり情報のチェックが不十分であったこと。
- マスコミ同士の競争の中で他社に抜かれたくないという思いがあったこと。
- 他社が記事にしているからこちらも載せて大丈夫だろうという姿勢があったこと。
戦争報道
この節の加筆が望まれています。 |
虚報
何らかの過失により事実と異なる報道がなされる誤報と違って、虚報、ないしは虚偽報道では故意に事実と異なる報道がなされる。従来、虚報は誤報の文脈で語られてきたが、明確にこれと区別する必要があろう。詳細は虚偽報道の項を参照されたい。
マスコミ以外が発信者の誤報
なお、マスコミ以外の発信者としては、次の3つに分類することができる。
- マスコミ以外の組織(会社や団体)によるもの。
- 一個人によるもの。
- 機械によるもの。
2による誤報の例は、山でのキャンプファイアーを誰かが山火事だと思って消防署に連絡するといったもの。セキュリティ機器が、異常事態が発生していないにも拘らず、何らかの原因で警報を鳴らすケースは3に含まれる。
関連項目
脚注
- ^ 年齢を偽っている著名人は少なくない。ある新聞が某劇作家の本当の年齢を書いたところ、その人物の周辺から抗議を受けたという。後藤文康『誤報』105-106頁を参照。
- ^ 市民団体の支援を受け、無罪釈放となった元被告は、“無実のヒーロー”、“冤罪事件の被害者”ともてはやされた。しかし、そのわずか5年後の1996年1月、東京都足立区で発生した首なし焼死体殺人事件の容疑者として逮捕され犯行を自供、1999年2月、無期懲役が確定した。なお、松戸OL殺人事件での弁護人は「当時口が裂けても言えなかったが一審の途中から元被告を疑い始めていた」と告白している。 2005年12月26日付西日本新聞「再考 来た道行く道<5>煩悶 逆転無罪と新たな悲劇―連載」。しかしながら、日本国憲法39条に定められた一事不再理は刑事裁判の基本原則であるため、両事件を法理論上、関連付けることはできない。
参考文献
- 城戸又一編『誤報』日本評論新社、1957年。
- 林ヶ谷昭太郎『日本の新聞報道』池田書店、1990年。
- 韮沢忠雄『マスコミ信仰の破たん』白石書店、1991年。
- 土屋道雄『報道は真実か』国書刊行会、1994年。
- 後藤文康『誤報』岩波書店、1996年。
- 池田龍夫『新聞の虚報・誤報――その構造的問題点に迫る』創樹社、2000年。