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「ニューキノロン」の版間の差分

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'''ニューキノロン''' ({{Lang-en|New Quinolone}}) とは、合成[[抗菌薬]]の系列のつである。[[DNAジャイレース]]を阻害するとにより、殺菌的に作用する薬である。[[キノロン]]人工的に合成・発展させたものであり、作用機序はキノロンと同一である。また、化学構造から'''フルオロキノロン'''({{Lang-en-short|fluoroquinolone}})とも称される。
'''ニューキノロン'''{{Lang-en|New Quinolone}}とは、人工合成された[[抗菌薬]]の系列の1つである。[[DNAジャイレース]]を阻害するという機序により、殺菌的に作用する薬物群である。[[キノロン]]の構造原型して、人工的に合成・発展させた薬物群であり、作用機序はキノロンと同一である。また、化学構造から'''フルオロキノロン'''({{Lang-en|fluoroquinolone}})とも称される。


経口投与が可能で比較的副作用が少ないということで頻用されている。しかし[[感染症学]]の知識を用いて診断を行えば、ほとんどの場合ニューキノロンしで治療は可能である。[[結核菌]]に効果がるため、軽はずみに処方すると診断が遅れる。
経口投与が可能で比較的副作用が少ないとされて頻用されてきた。しかし[[感染症学]]の知識を用いて診断を行えば、ほとんどの場合ニューキノロンなどの抗菌薬を使用せずに治療は可能である。なお、ニューキノロンは[[結核菌]]に効果がるため、軽はずみにニューキノロンを処方すると診断が遅れ、適切な治療開始も遅れる。


2016年7月26日、[[国食品医薬品局]](FDA)は副作用の警告を強化した。腱炎や腱断裂(全ての年代で)、関節痛、筋痛、[[神経因性疼痛|末梢神経障害]](針で刺すような痛み)、中枢神経系への影響(幻覚、不安、うつ病、不眠、重度の頭痛、混乱)と関連が判明した。これらの副作用は、使用開始から数日以内、又は使用後数カ月以内に発現する。不可逆的な場合もある<ref>[http://www.fda.gov/newsevents/newsroom/pressannouncements/ucm513183.htm FDA updates warnings for fluoroquinolone antibiotics (July 26, 2016)] 2016年12月4日閲覧</ref><ref>[http://www.fda.gov/Drugs/DrugSafety/ucm500143.htm FDA Drug Safety Communication: FDA advises restricting fluoroquinolone antibiotic use for certain uncomplicated infections; warns about disabling side effects that can occur together (July 26, 2016)] 2016年12月4日閲覧</ref><ref>[http://www.fda.gov/Safety/MedWatch/SafetyInformation/ucm303865.htm Levaquin (Levofloxacin) Tablets, Oral Solution and Injection (July 2016)] 2016年12月4日閲覧</ref>。
2016年7月26日、[[アメリカ合衆国食品医薬品局]](FDA)ニューキノロンの副作用の警告を強化した。腱炎や腱断裂(全ての年代で)、関節痛、筋痛、[[神経因性疼痛|末梢神経障害]](針で刺すような痛み)、中枢神経系への影響(幻覚、不安、うつ病、不眠、重度の頭痛、混乱)と関連が判明した。これらの副作用は、使用開始から数日以内、又は使用後数カ月以内に発現する。不可逆的な場合もある<ref>[http://www.fda.gov/newsevents/newsroom/pressannouncements/ucm513183.htm FDA updates warnings for fluoroquinolone antibiotics (July 26, 2016)] 2016年12月4日閲覧</ref><ref>[http://www.fda.gov/Drugs/DrugSafety/ucm500143.htm FDA Drug Safety Communication: FDA advises restricting fluoroquinolone antibiotic use for certain uncomplicated infections; warns about disabling side effects that can occur together (July 26, 2016)] 2016年12月4日閲覧</ref><ref>[http://www.fda.gov/Safety/MedWatch/SafetyInformation/ucm303865.htm Levaquin (Levofloxacin) Tablets, Oral Solution and Injection (July 2016)] 2016年12月4日閲覧</ref>。


ロメフロキサシンの高用量は自発運動を低下させ、体温降下や[[鎮痛剤|鎮痛]]などの[[抑制剤|中枢神経抑制]]作用が示された。[[痙攣]]誘発などの[[中枢神経刺激薬|中枢神経刺激]]作用も示された<ref>[http://www.info.pmda.go.jp/go/interview/3/730869_6241009F1028_3_001_1F.pdf 医薬品インタビューフォーム バレオン(塩酸ロメフロキサシン) - 2015年11月改訂(第9版)] 2016年12月4日閲覧</ref>。
また、[[ロメフロキサシン]]の高用量投与は自発運動を低下させ、体温降下や[[鎮痛剤|鎮痛]]などの[[抑制剤|中枢神経抑制]]作用が示された。[[痙攣]]誘発などの[[中枢神経刺激薬|中枢神経刺激]]作用も示された<ref>[http://www.info.pmda.go.jp/go/interview/3/730869_6241009F1028_3_001_1F.pdf 医薬品インタビューフォーム バレオン(塩酸ロメフロキサシン) - 2015年11月改訂(第9版)] 2016年12月4日閲覧</ref>。


== 種類 ==
== 種類 ==
[[ファイル:クラビット500㎎ヒート.jpg|thumb|right|[[レボフロキサシン]]製剤のクラビット<sup>®</sup>500㎎錠]]
[[File:クラビット500㎎ヒート.jpg|200px|thumb|right|[[レボフロキサシン]]製剤のクラビット<sup>®</sup>500 ㎎錠]]
; 第IIa世代キノロン
*[[ナジフロキサシン]] nadifloxacin(NDFX)
*[[ノルフロキサシン]] norfloxacin(NFLX)
*[[オフロキサシン]] ofloxacin(OFLX)
*[[エノキサシン]] enoxacin(ENX)
*塩酸[[シプロフロキサシン]] ciprofloxacin(CPFX)
*塩酸[[ロメフロキサシン]] lomefloxacin(LFLX)
*[[レボフロキサシン]] levofloxacin(LVFX)
*[[ガレノキサシン]] garenoxacin(GRNX)
*[[フレロキサシン]] fleroxacin(FLRX)
*[[シタフロキサシン]] sitafloxacin(STFX)
; 第IIb世代キノロン
*[[トスフロキサシン]]トシル酸塩 tosufloxacin(TFLX)
*[[スパルフロキサシン]] sparfloxacin(SPFX)
; 第IIIa世代キノロン
*[[ガチフロキサシン]] gatifloxacin(GFLX)
*[[モキシフロキサシン]] moxifloxacin(MFLX)


;第IIa世代キノロン
なお、第IIb世代以降のキノロン系薬剤は、特に呼吸器系感染症への抗菌作用が増強されていることから、''レスピラトリーキノロン''と通称されている。
* [[ナジフロキサシン]] nadifloxacin(NDFX)
* [[ノルフロキサシン]] norfloxacin(NFLX)
* [[オフロキサシン]] ofloxacin(OFLX)
* [[エノキサシン]] enoxacin(ENX)
* [[シプロフロキサシン]] ciprofloxacin(CPFX)
* [[ロメフロキサシン]] lomefloxacin(LFLX)
* [[レボフロキサシン]] levofloxacin(LVFX)
* [[ガレノキサシン]] garenoxacin(GRNX)
* [[フレロキサシン]] fleroxacin(FLRX)
* [[シタフロキサシン]] sitafloxacin(STFX)
;第IIb世代キノロン
* [[トスフロキサシン]] tosufloxacin(TFLX)
* [[スパルフロキサシン]] sparfloxacin(SPFX)
;第IIIa世代キノロン
* [[ガチフロキサシン]] gatifloxacin(GFLX)
* [[モキシフロキサシン]] moxifloxacin(MFLX)

なお、第IIb世代以降のキノロン系抗菌薬は、それ以前のキノロン系抗菌薬と比べて、特に[[呼吸器感染症]]に効き易いとされているため、'''レスピラトリーキノロン'''と通称されている。

参考までに、第I世代キノロン系抗菌薬は'''[[キノロン|オールドキノロン]]'''と呼ばれてニューキノロンとは区別され、主に[[尿路感染症]]に使用されてきた。


== 副作用 ==
== 副作用 ==
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;血糖異常(特に低血糖)
;血糖異常(特に低血糖)
:[[ガチフロキサシン]]で起こりやすく、ガチフロキサシンは世界的に販売中止となった。
: 特に[[ガチフロキサシン]]で起こりく、ガチフロキサシンは世界的に販売中止された。
;[[横紋筋融解症]]
;[[横紋筋融解症]]
:筋タンパク質の種である[[ミオグロビン]]の血中濃度上昇結果、急性[[腎不全]]の重篤な作用に至る場合がある。
: これを発症すると、肉のタンパク質の1種である[[ミオグロビン]]の分解産物の血中濃度上昇が起きた結果、[[腎不全|急性腎不全]]などの重篤な有害作用に至る場合がある。
;[[光線過敏]]
;[[光線過敏]]
:[[スパルフロキサシン]]で起こりやすい。
: 特に[[スパルフロキサシン]]で起こりい。
;関節毒性
;関節毒性
:動物実験(幼若犬)において関節異常が認められているため、小児投与は多くが禁忌とされている(例外:[[ノルフロキサシン]]、[[トスフロキサシン]])。
: 動物実験(幼若犬)において関節異常が認められているため、小児投与は多くが禁忌とされている(例外:[[ノルフロキサシン]]、[[トスフロキサシン]])。
;腱の異常
;腱の異常
:高齢者で[[アキレス腱断裂]]を起こすことがある。
: 特に高齢者で[[アキレス腱断裂]]を起こす場合がある。


=== GABA受容体拮抗作用 ===
=== GABA受容体拮抗作用 ===
[[GABAA受容体|GABA<sub>A</sub>受容体]]結合阻害作用が示唆される。50%阻害濃度(IC<sub>50</sub>)は、ノルフロキサシンが14µMで、インドメタシン(10mM)と併用時は0.19µMである<ref>[http://www.info.pmda.go.jp/go/interview/1/480297_6241010F1020_1_009_1F.pdf 医薬品インタビューフォーム オゼックス錠(トスフロキサシントシル酸塩水和物) - 2011年2月改訂(改訂第14版)] 2016年12月4日閲覧</ref>。
[[GABAA受容体|GABA<sub>A</sub>受容体]]をブロックする作用が示唆される。GABA<sub>A</sub>受容体に対するノルフロキサシンの50%阻害濃度(IC<sub>50</sub>)は、14 µMであった。さらにCOX阻害薬のインドメタシン(10 mM)と併用時に、ノルフロキサシンのGABA<sub>A</sub>受容体に対するIC<sub>50</sub>0.19 µMと大幅に低下する<ref>[http://www.info.pmda.go.jp/go/interview/1/480297_6241010F1020_1_009_1F.pdf 医薬品インタビューフォーム オゼックス錠(トスフロキサシントシル酸塩水和物) - 2011年2月改訂(改訂第14版)] 2016年12月4日閲覧</ref><ref group="注釈">要するに、COX阻害薬と併用すると、GABA<sub>A</sub>受容体を、より強く阻害する傾向が見られるという意味である。</ref>。


=== 薬物相互作用 ===
=== 薬物相互作用 ===
COX阻害薬とニューキノロンの併用で、GABA<sub>A</sub>受容体の阻害作用が強まるために、[[痙攣]]が起こる場合が有ると言われてきたものの、本当に問題にする必要が有る程に痙攣が発生するのかどうか、近年は論争中である。
[[非ステロイド性抗炎症薬|NSAIDs]]との併用で[[痙攣]]がおこることがあると言われているが近年は論争中である。[[テオフィリン]]や[[ワルファリン]]の血中濃度を上昇させる。また、制酸剤(Mg製剤)や(Al含有の)胃粘膜保護薬、鉄剤を併用するとニューキノロンの吸収が阻害されるので、ニューキノロンと併用する場合は服用する時間を2~3時間空ける。[[酸化マグネシウム]](マグミット、マグラックス等)を用いる場合は、ニューキノロンを朝にまとめて服薬し、夕方に酸化Mgを用いるという方法もある。痛みを伴う場合、ロルカムやフルカムといった[[シクロオキシゲナーゼ#COX-2選択的阻害薬|COX-2選択的阻害薬]]を用いれば、添付文書上は禁忌にはならない。

ニューキノロンは併用した薬物の代謝に関わる酵素を阻害して、併用薬物の血中濃度を上昇させる場合がある。この酵素阻害の結果、例えば、[[テオフィリン]]や[[ワーファリン]]の血中濃度を上昇させる。

また、制酸剤(Mg製剤)や(Al含有の)胃粘膜保護薬、鉄剤のような、金属を含んだ薬物と併用すると、金属とニューキノロンが不溶性の沈殿を形成するために、ニューキノロンの吸収が阻害される。したがって、ニューキノロンと、これら金属を含んだ薬物を併用する場合は、服用する時間を2~3時間空けて、消化管内で出会わないようにして、この相互作用を回避する。なお、[[酸化マグネシウム]]を用いる場合は、ニューキノロンを朝にまとめて服薬し、夕方に酸化Mgを用いるという方法もある。


== 使い分け ==
== 使い分け ==
よく用いられる薬としてはオフロキサシン(OFLX、商品名タリビッド)、シプロフロキサシン(CPFX、商品名シプロキサン)、レボフロキサシン(LVFX、商品名クラビット)げられる。オフロキサシンやシプロフロキサシンは細菌が回変異しただけで耐性化する。CPFX耐性化≒ニューキノロン耐性化がほとんどである。
よく用いられる薬としてはオフロキサシン(OFLX)、シプロフロキサシン(CPFX)、レボフロキサシン(LVFX)げられる。オフロキサシンやシプロフロキサシンは細菌が1回変異しただけで耐性化する。さらに交叉耐性が起こるので、CPFX耐性化≒ニューキノロン耐性化がほとんどである。なお、シプロフロキサシンは耐性化し易いので[[リファンピシン]]を併用する場合もあるが、一般に臨床使用での併用で耐性化率の有意差が出るとの報告は無い


これらの薬は[[好気性生物|好気性]]・[[グラム陰性菌]]には著効するが、それ以外の効果には差がる。ガチフロキサシンやモキシフロキサシンは[[肺炎球菌]]に効果的でシプロフロキサシンは[[黄色ブドウ球菌]]によく効くと言われている。前述のようにシプロフロキサシンは耐性化しやすいので[[リファンピシン]]を併用することもあるが、一般に臨床使用での併用で耐性化率の有意差があるとの報告はない
これらの薬は[[好気性生物|好気性]]・[[グラム陰性菌]]には著効するが、それ以外の効果には差が見られる。ガチフロキサシンやモキシフロキサシンは[[肺炎球菌]]に効果的でシプロフロキサシンは[[黄色ブドウ球菌]]によく効くと言われている。

よく用いられるシプロフロキサシンとレボフロキサシンの使い分けに関してまとめる。シプロフロキサシンは1日2回投与でありレボフロキサシンは1日1回投与である。[[緑膿菌]]など好気性グラム陰性菌に対してはシプロフロキサシンの方が活性が高く、肺炎球菌にはレボフロキサシンの方が活性が強い。レボフロキサシンはレスピラトリーキノロンであるのに対して、シプロフロキサシンはそうではない。


よく用いられるシプロフロキサシンとレボフロキサシンの使い分けに関してまとめる。シプロフロキサシンは1日2回投与でありレボフロキサシンは1日1回投与である。[[緑膿菌]]など好気性グラム陰性菌に対してはシプロフロキサシンの方が活性が高く、肺炎球菌にはレボフロキサシンの方が活性が強い。レボフロキサシンはレスピラトリーキノロンであるがシプロフロキサシンはそうではない。
;尿路感染症
;尿路感染症
:シプロキサン400~500mg 1日2回投与やクラビット500mg 1日1回投与などがよく行われる。しかし[[ST合剤]]より有効性が高いわけではない。
: シプロフロキサ400~500 mgを1日2回投与や、レボフロキサシン500 mgを1日1回投与などがよく行われる。しかし[[ST合剤]]より有効性が高いわけではない。
;市中肺炎
;市中肺炎
:レスピラトリーキノロンであるクラビット500mg 1日1回7日間または解熱後3日までで投与がされることがある[[セファロスポリン|セフェム系]]と[[マクロライド|マクロライド系]]の併用などで代用できる。その場合はメイアクト200mg 1日3回投与とジスロマック2g 1回若しくは500mg 1日1回3日連続投与を行う
: レスピラトリーキノロンであるレボフロキサシン500 mgを1日1回7日間または解熱後3日までで投与がされる場合がある。しかし[[セファロスポリン|セフェム系]]と[[マクロライド系抗菌薬]]の併用などで代用できる。
;旅行者下痢症
;旅行者下痢症
:旅行者下痢症の原因は腸管毒素原性大腸菌(ETEC)が多いため、症状が出現したらクラビット500mg 1回、シプロキサン400~500mg 1日2回3日間、ジスロマック2g 1回やリファキシミンなどが用いられる。
: 旅行者下痢症の原因は腸管毒素原性大腸菌(ETEC)が多いため、症状が出現したらレボフロキサシン500 mgを1回、シプロフロキサ400~500 mgを1日2回3日間の投与される場合がある。またニューキノロン以外であれば、例えば[[アジスロマイシン]]2 gを1回などが用いられる場合もある。
;STD
:クラビット500mg 1日1回7日間などで用いられる。
; 尋常性ざ瘡(にきび)
: ナジフロキサシン1%外用剤を1日2回、患部に塗布する。


== 抗生物質の誤用と細菌耐性 ==
== 抗菌薬の誤用と細菌による耐性獲得 ==
{{See also|:en:Antibiotic misuse|抗微生物薬耐性}}
{{See also|:en:Antibiotic misuse|抗微生物薬耐性}}
広域抗生物質の使用は、[[薬剤耐性]]菌の拡散と[[クロストリディオイデス・ディフィシル]]感染の発生を促進するため、治療ガイドラインでは、重症度の低い感染症や多剤耐性の危険因子が存在しない場合、フルオロキノロンやその他の広域抗生物質の使用を最小限に抑えることを推奨している。フルオロキノロンは[[市中肺炎]]の第一選択薬として使用しないことが推奨されており<ref>{{cite journal |vauthors=Mandell LA, Wunderink RG, Anzueto A, etal |title=Infectious Diseases Society of America/American Thoracic Society consensus guidelines on the management of community-acquired pneumonia in adults |journal=Clinical Infectious Diseases |volume=44 Suppl 2 |issue= |pages=S27–72 |date=March 2007 |pmid=17278083 |doi=10.1086/511159 |url=}}</ref>、代わりに第一選択薬として[[マクロライド]]または[[ドキシサイクリン]]を推奨する。薬剤耐性肺炎球菌ワーキンググループは、他の抗生物質クラスが試行され失敗した後、または薬剤耐性[[肺炎球菌]]が実証されている場合にのみ、市中感染肺炎の外来治療にフルオロキノロンを使用することを推奨している<ref>{{cite journal |vauthors=MacDougall C, Guglielmo BJ, Maselli J, Gonzales R |title=Antimicrobial drug prescribing for pneumonia in ambulatory care |journal=Emerging Infectious Diseases |volume=11 |issue=3 |pages=380–4 |date=March 2005 |pmid=15757551 |pmc=3298265 |doi=10.3201/eid1103.040819 |url=}}</ref>。


広域の抗菌スペクトルを有した抗菌薬の使用は、[[薬剤耐性]]菌の拡散と、菌交代による[[クロストリディオイデス・ディフィシル]]感染の発生を促進するため、治療ガイドラインでは、重症度の低い感染症や多剤耐性の危険因子が存在しない場合、フルオロキノロンやその他の広域抗生物質の使用を最小限に抑える事を推奨している。
キノロンに対する薬剤耐性は、治療中であっても急速に進化する可能性がある。[[大腸菌]]を含む多くの[[病原体]]は、一般的に耐性獲得を示す<ref>M Jacobs, Worldwide Overview of Antimicrobial Resistance. International Symposium on Antimicrobial Agents and Resistance 2005.</ref>。特にヨーロッパでのキノロンの広範な獣医学的使用が関係している<ref>{{Cite journal| last1 = Nelson | first1 = JM. | last2 = Chiller | first2 = TM. | last3 = Powers | first3 = JH. | last4 = Angulo | first4 = FJ. | title = Fluoroquinolone-resistant Campylobacter species and the withdrawal of fluoroquinolones from use in poultry: a public health success story | journal = Clinical Infectious Diseases | volume = 44 | issue = 7 | pages = 977–80 |date=April 2007 | doi = 10.1086/512369 | pmid = 17342653 }}</ref>。


ニューキノロンは市中肺炎の第1選択薬として使用しない事が推奨されている<ref>{{cite journal
アメリカ医療研究品質局([[:en:Agency for Healthcare Research and Quality]]; AHRQ, pronounced "ark")が一部補助する研究によると、フルオロキノロンは、2002年に成人に最も一般的に処方される抗生物質のクラスになった<ref name="Lind">{{Cite journal|vauthors=Linder JA, Huang ES, Steinman MA, Gonzales R, Stafford RS | title = Fluoroquinolone prescribing in the United States: 1995 to 2002 | journal = The American Journal of Medicine | volume = 118 | issue = 3 | pages = 259–68 |date=March 2005 | pmid = 15745724 | doi = 10.1016/j.amjmed.2004.09.015 }}</ref><ref>K08 HS14563 and HS11313</ref>。これらの処方のほぼ半数(42%)は、[[急性気管支炎]]、[[中耳炎]]、急性上気道感染など、米国FDAによって承認されていない状態に対するものであった。さらに、それらは通常、ウイルス感染によって引き起こされる急性呼吸器疾患などの病状のために処方される薬剤であった<ref>{{Cite journal |pmid=12588273 |quote=From 1995 to 2002, inappropriate antibiotic prescribing for acute respiratory infections, which are usually caused by viruses and thus are not responsive to antibiotics, declined from 61 to 49 percent. However, the use of broad-spectrum antibiotics such as the fluoroquinolones, jumped from 41 to 77 percent from 1995 to 2001. Overuse of these antibiotics will eventually render them useless for treating antibiotic-resistant infections, for which broad-spectrum antibiotics are supposed to be reserved. |url=http://www.ahrq.gov/research/nov07/1107RA29.htm |year=2003 |last1=Neuhauser |first1=MM |last2=Weinstein |first2=RA |last3=Rydman |first3=R |last4=Danziger |first4=LH |last5=Karam |first5=G |last6=Quinn |first6=JP |title=Antibiotic resistance among gram-negative bacilli in US intensive care units: implications for fluoroquinolone use |volume=289 |issue=7 |pages=885–8 |journal=JAMA: The Journal of the American Medical Association |doi=10.1001/jama.289.7.885 |url-status=dead |archiveurl=https://web.archive.org/web/20090507021140/http://www.ahrq.gov/research/nov07/1107RA29.htm |archivedate=7 May 2009 |df=dmy-all }}</ref>。
| title = Infectious Diseases Society of America/American Thoracic Society consensus guidelines on the management of community-acquired pneumonia in adults
| authors = Mandell LA, Wunderink RG, Anzueto A, etal
| journal = Clinical Infectious Diseases |volume=44 Suppl 2 |pages=S27–72 |date=March 2007
| pmid = 17278083 |doi=10.1086/511159
}}</ref>。もしも抗菌薬を使用するならば、第1選択薬としてマクロライド系抗菌薬または[[ドキシサイクリン]]を推奨する。薬剤耐性肺炎球菌ワーキンググループは、他の抗生物質クラスが試行され失敗した後、または薬剤耐性[[肺炎球菌]]が実証されている場合にのみ、市中感染肺炎の外来治療にニューキノロンを使用する事を推奨している<ref>{{cite journal
| title = Antimicrobial drug prescribing for pneumonia in ambulatory care
| authors = MacDougall C, Guglielmo BJ, Maselli J, Gonzales R
| journal = Emerging Infectious Diseases |volume=11 |issue=3 |pages=380–384 |date=March 2005
| pmid = 15757551 |pmc=3298265 |doi=10.3201/eid1103.040819
}}</ref>。


ニューキノロンに対する薬剤耐性は、治療中であっても急速に進化する可能性がある。大腸菌を含む多くの病原体は、一般的に耐性獲得を示す<ref>M Jacobs, Worldwide Overview of Antimicrobial Resistance. International Symposium on Antimicrobial Agents and Resistance 2005.</ref>。
薬物耐性のメカニズムは3つ知られている<ref>{{Cite journal|vauthors=Robicsek A, Jacoby GA, Hooper DC |title=The worldwide emergence of plasmid-mediated quinolone resistance |journal=Lancet Infect. Dis. |volume=6 |issue=10 |pages=629–40 |date=October 2006 |pmid=17008172 |doi=10.1016/S1473-3099(06)70599-0 }}</ref>。いくつかのタイプの排出ポンプ(efflux pump)は、細胞内キノロン濃度を低下させるように作用する<ref name="pmid9661020">{{cite journal |vauthors=Morita Y, Kodama K, Shiota S, Mine T, Kataoka A, Mizushima T, Tsuchiya T | title = NorM, a Putative Multidrug Efflux Protein, of Vibrio parahaemolyticus and Its Homolog in ''Escherichia coli'' | journal = Antimicrobial Agents and Chemotherapy | volume = 42 | issue = 7 | pages = 1778–82 |date=July 1998 | pmid = 9661020 | pmc = 105682 | doi = 10.1128/AAC.42.7.1778| url = | issn = }}</ref>。グラム陰性菌では、プラスミドを介した耐性遺伝子がDNAジャイレースに結合できるタンパク質を生成し、キノロンの作用から保護し、耐性を得る。 最後に、[[DNAジャイレース]]または[[トポイソメラーゼ]]IVの重要な部位での変異は、キノロンへの結合親和性を低下させ、薬の有効性を低下させる可能性がある。

特にヨーロッパでのキノロンの広範な、[[畜産業|畜産業界]]での使用が、細菌のニューキノロンに対する耐性獲得に関係している<ref>{{Cite journal
| title = Fluoroquinolone-resistant Campylobacter species and the withdrawal of fluoroquinolones from use in poultry: a public health success story
| first1 = JM. | last1 = Nelson
| first2 = TM. | last2 = Chiller
| first3 = JH. | last3 = Powers
| first4 = FJ. | last4 = Angulo
| journal = Clinical Infectious Diseases | volume = 44 | issue = 7 | pages = 977–980 |date=April 2007
| doi = 10.1086/512369 | pmid = 17342653
}}</ref>。

アメリカ医療研究品質局([[:en:Agency for Healthcare Research and Quality]]; AHRQ, pronounced "ark")が研究費の一部を補助した研究によると、ニューキノロンは、2002年に成人に最も一般的に処方された抗菌薬のクラスだった<ref name="Lind">{{Cite journal
| title = Fluoroquinolone prescribing in the United States: 1995 to 2002
| authors = Linder JA, Huang ES, Steinman MA, Gonzales R, Stafford RS
| journal = The American Journal of Medicine | volume = 118 | issue = 3 | pages = 259–268 |date=March 2005
| pmid = 15745724 | doi = 10.1016/j.amjmed.2004.09.015
}}</ref><ref>K08 HS14563 and HS11313</ref>。ところが、これらの処方のほぼ半数(42%)は、[[急性気管支炎]]、[[中耳炎]]、急性上気道感染など、FDAによって承認されていない病態に対する処方であった。つまり、通常はウイルス感染によって引き起こされるために抗菌薬が無効な、急性呼吸器疾患などの病状のために処方された薬剤であった<ref>{{Cite journal
| title = Antibiotic resistance among gram-negative bacilli in US intensive care units: implications for fluoroquinolone use
| first1 = MM |last1=Neuhauser
| first2 = RA |last2=Weinstein
| first3 = R |last3=Rydman
| first4 = LH |last4=Danziger
| first5 = G |last5=Karam
| first6 = JP |last6=Quinn
| year = 2003
| journal = JAMA: The Journal of the American Medical Association |volume=289 |issue=7 |pages=885–888
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| title = NorM, a Putative Multidrug Efflux Protein, of Vibrio parahaemolyticus and Its Homolog in ''Escherichia coli''
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| journal = Antimicrobial Agents and Chemotherapy | volume = 42 | issue = 7 | pages = 1778–1782 |date=July 1998
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== 薬物動態学 ==
== 薬物動態学 ==
なおキノロン系薬剤は、濃度依存性の薬物なので、例えばクラビット&reg;100mg 3錠を処方するときは、100mg1錠を回飲むよりも3錠を回飲むよう指示する方が効果は高かったが以前国内では認められていなかった。しかし、国に遅れ、日本でもこの事が次第に認知され、クラビット&reg;250mg/500mgが上市されたためクラビット100mg錠は製造終了となった。PK/PDパラメータとしては AUC/MIC または Peak/MIC(Cmax/MIC) を指標とする。しかし、実際の臨床の場での投与方法にそぐわないという意見もあるので、注意が必要である。
ニューキノロンは、濃度依存性の薬物なので、例えばレボフロキサシン100 mg 3錠を処方する場合は、100 mg 1錠を3回飲むよりも3錠を1回飲むよう指示する方が効果は高い。しこの処方、かつて日本では認められていなかった。しかし、先進国に遅れようやく日本でも次第にこの事が認知され始めレボフロキサシン250 mgや500 mgの製剤が上市されレボフロキサシン100 mg錠は意味を失って製造終了た。PK/PDパラメータとしては AUC/MIC または Peak/MIC(Cmax/MIC) を指標とする。しかし、実際の臨床の場での投与方法にそぐわないという意見もある。
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== 関連項目 ==
== 脚注 ==
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=== 出典 ===
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2021年8月19日 (木) 02:28時点における版

ニューキノロン英語: New Quinolone)とは、人工合成された抗菌薬の系列の1つである。DNAジャイレースを阻害するという機序により、殺菌的に作用する薬物群である。キノロンの構造を原型として、人工的に合成・発展させた薬物群であり、作用機序はキノロンと同一である。また、化学構造からフルオロキノロン英語: fluoroquinolone)とも称される。

経口投与が可能で、比較的副作用が少ないとされて頻用されてきた。しかし、感染症学の知識を用いて診断を行えば、ほとんどの場合、ニューキノロンなどの抗菌薬を使用せずに治療は可能である。なお、ニューキノロンは結核菌にも効果が出るため、軽はずみにニューキノロンを処方すると診断が遅れ、適切な治療開始も遅れる。

2016年7月26日に、アメリカ合衆国食品医薬品局(FDA)はニューキノロンの副作用の警告を強化した。腱炎や腱断裂(全ての年代で)、関節痛、筋痛、末梢神経障害(針で刺すような痛み)、中枢神経系への影響(幻覚、不安、うつ病、不眠、重度の頭痛、混乱)と関連が判明した。これらの副作用は、使用開始から数日以内、又は使用後数カ月以内に発現する。不可逆的な場合もある[1][2][3]

また、ロメフロキサシンの高用量投与は自発運動を低下させ、体温降下や鎮痛などの中枢神経抑制作用が示された。痙攣誘発などの中枢神経刺激作用も示された[4]

種類

レボフロキサシン製剤のクラビット®500 ㎎錠
第IIa世代キノロン
第IIb世代キノロン
第IIIa世代キノロン

なお、第IIb世代以降のキノロン系抗菌薬は、それ以前のキノロン系抗菌薬と比べて、特に呼吸器感染症に効き易いとされているため、レスピラトリーキノロンと通称されている。

参考までに、第I世代キノロン系抗菌薬はオールドキノロンと呼ばれてニューキノロンとは区別され、主に尿路感染症に使用されてきた。

副作用

ニューキノロンに比較的特徴的な副作用を列記する。

血糖異常(特に低血糖)
特にガチフロキサシンで起こり易く、ガチフロキサシンは世界的に販売中止された。
横紋筋融解症
これを発症すると、筋肉のタンパク質の1種であるミオグロビンの分解産物の血中濃度上昇が起きた結果、急性腎不全などの重篤な有害作用に至る場合がある。
光線過敏症
特にスパルフロキサシンで起こり易い。
関節毒性
動物実験(幼若犬)において関節異常が認められているため、小児投与は多くが禁忌とされている(例外:ノルフロキサシントスフロキサシン)。
腱の異常
特に高齢者でアキレス腱断裂を起こす場合がある。

GABA受容体拮抗作用

GABAA受容体をブロックする作用が示唆される。GABAA受容体に対するノルフロキサシンの50%阻害濃度(IC50)は、14 µMであった。さらに、COX阻害薬のインドメタシン(10 mM)と併用時に、ノルフロキサシンのGABAA受容体に対するIC50は、0.19 µMと大幅に低下する[5][注釈 1]

薬物相互作用

COX阻害薬とニューキノロンの併用で、GABAA受容体の阻害作用が強まるために、痙攣が起こる場合が有ると言われてきたものの、本当に問題にする必要が有る程に痙攣が発生するのかどうか、近年は論争中である。

ニューキノロンは併用した薬物の代謝に関わる酵素を阻害して、併用薬物の血中濃度を上昇させる場合がある。この酵素阻害の結果、例えば、テオフィリンワーファリンの血中濃度を上昇させる。

また、制酸剤(Mg製剤)や(Al含有の)胃粘膜保護薬、鉄剤のような、金属を含んだ薬物と併用すると、金属とニューキノロンが不溶性の沈殿を形成するために、ニューキノロンの吸収が阻害される。したがって、ニューキノロンと、これら金属を含んだ薬物を併用する場合は、服用する時間を2~3時間空けて、消化管内で出会わないようにして、この相互作用を回避する。なお、酸化マグネシウムを用いる場合は、ニューキノロンを朝にまとめて服薬し、夕方に酸化Mgを用いるという方法もある。

使い分け

よく用いられる薬としてはオフロキサシン(OFLX)、シプロフロキサシン(CPFX)、レボフロキサシン(LVFX)が挙げられる。オフロキサシンやシプロフロキサシンは細菌が1回変異しただけで耐性化する。さらに交叉耐性が起こるので、CPFX耐性化≒ニューキノロン耐性化がほとんどである。なお、シプロフロキサシンは耐性化し易いのでリファンピシンを併用する場合もあるが、一般に臨床使用での併用で耐性化率の有意差が出るとの報告は無い。

これらの薬は好気性グラム陰性菌には著効するが、それ以外の効果には差が見られる。ガチフロキサシンやモキシフロキサシンは肺炎球菌に効果的で、シプロフロキサシンは黄色ブドウ球菌によく効くと言われている。

よく用いられるシプロフロキサシンとレボフロキサシンの使い分けに関してまとめる。シプロフロキサシンは1日2回投与でありレボフロキサシンは1日1回投与である。緑膿菌など好気性グラム陰性菌に対してはシプロフロキサシンの方が活性が高く、肺炎球菌にはレボフロキサシンの方が活性が強い。レボフロキサシンはレスピラトリーキノロンであるのに対して、シプロフロキサシンはそうではない。

尿路感染症
シプロフロキサシン400~500 mgを1日2回投与や、レボフロキサシン500 mgを1日1回投与などがよく行われる。しかしST合剤より有効性が高いわけではない。
市中肺炎
レスピラトリーキノロンであるレボフロキサシン500 mgを1日1回7日間または解熱後3日までで投与がされる場合がある。しかしセフェム系マクロライド系抗菌薬の併用などで代用できる。
旅行者下痢症
旅行者下痢症の原因は腸管毒素原性大腸菌(ETEC)が多いため、症状が出現したらレボフロキサシン500 mgを1回、シプロフロキサシン400~500 mgを1日2回3日間の投与される場合がある。またニューキノロン以外であれば、例えば、アジスロマイシン2 gを1回などが用いられる場合もある。

抗菌薬の誤用と、細菌による耐性獲得

広域の抗菌スペクトルを有した抗菌薬の使用は、薬剤耐性菌の拡散と、菌交代によるクロストリディオイデス・ディフィシル感染の発生を促進するため、治療ガイドラインでは、重症度の低い感染症や多剤耐性の危険因子が存在しない場合、フルオロキノロンやその他の広域抗生物質の使用を最小限に抑える事を推奨している。

ニューキノロンは市中肺炎の第1選択薬として使用しない事が推奨されている[6]。もしも抗菌薬を使用するならば、第1選択薬としてマクロライド系抗菌薬またはドキシサイクリンを推奨する。薬剤耐性肺炎球菌ワーキンググループは、他の抗生物質クラスが試行され失敗した後、または薬剤耐性肺炎球菌が実証されている場合にのみ、市中感染肺炎の外来治療にニューキノロンを使用する事を推奨している[7]

ニューキノロンに対する薬剤耐性は、治療中であっても急速に進化する可能性がある。大腸菌を含む多くの病原体は、一般的に耐性獲得を示す[8]

特にヨーロッパでのキノロンの広範な、畜産業界での使用が、細菌のニューキノロンに対する耐性獲得に関係している[9]

アメリカ医療研究品質局(en:Agency for Healthcare Research and Quality; AHRQ, pronounced "ark")が研究費の一部を補助した研究によると、ニューキノロンは、2002年に成人に最も一般的に処方された抗菌薬のクラスだった[10][11]。ところが、これらの処方のほぼ半数(42%)は、急性気管支炎中耳炎、急性上気道感染など、FDAによって承認されていない病態に対する処方であった。つまり、通常はウイルス感染によって引き起こされるために抗菌薬が無効な、急性呼吸器疾患などの病状のために処方された薬剤であった[12]

細菌による薬物耐性獲得のメカニズムは、主に3通りが知られている[13]。1通り目の耐性メカニズムとして、幾つかのタイプの排出ポンプ(efflux pump)が、細胞内のニューキノロンの濃度を低下させるように作用する事が挙げられる[14]。2通り目の耐性メカニズムとして、プラスミドを介した耐性遺伝子がDNAジャイレースに結合できるタンパク質を生成し、ニューキノロンの作用から保護して、耐性を得る。3通り目の耐性メカニズムとして、DNAジャイレースまたはトポイソメラーゼIVの重要な部位での変異が、ニューキノロンへの結合親和性を低下させ、その抗菌薬としての有効性を低下させる可能性がある。

薬物動態学

ニューキノロンは、濃度依存性の薬物なので、例えばレボフロキサシン100 mg 3錠を処方する場合は、100 mg 1錠を3回飲むよりも、3錠を1回飲むよう指示する方が効果は高い。しかし、この処方は、かつて日本では認められていなかった。しかし、先進国に遅れて、ようやく日本でも次第にこの事実が認知され始め、レボフロキサシン250 mgや500 mgの製剤が上市されて、レボフロキサシン100 mg錠は意味を失って製造を終了した。PK/PDパラメータとしては AUC/MIC または Peak/MIC(Cmax/MIC) を指標とする。しかし、実際の臨床の場での投与方法にそぐわないという意見もある。

参考文献

  • 藤本卓司『感染症レジデントマニュアル』医学書院、2004年。ISBN 4-260-10660-0 
  • 岩田健太郎、宮入烈『抗菌薬の考え方、使い方』中外医学社、2004年。ISBN 4-498-01758-7 
  • 岩田健太郎『プライマリケア医のための抗菌薬マスター講座』南江堂、2011年。ISBN 9784524264711 
  • Dos&Don'ts! Dr.青木の感染症大原則. ケアネット. 2004. ISBN 490333127X
  • Dr.岩田の感染症アップグレード. Vol. 第1巻. ケアネット. ISBN 4903331415
  • Dr.岩田の感染症アップグレード. Vol. 第2巻. ケアネット. ISBN 4903331423

脚注

注釈

  1. ^ 要するに、COX阻害薬と併用すると、GABAA受容体を、より強く阻害する傾向が見られるという意味である。

出典

  1. ^ FDA updates warnings for fluoroquinolone antibiotics (July 26, 2016) 2016年12月4日閲覧
  2. ^ FDA Drug Safety Communication: FDA advises restricting fluoroquinolone antibiotic use for certain uncomplicated infections; warns about disabling side effects that can occur together (July 26, 2016) 2016年12月4日閲覧
  3. ^ Levaquin (Levofloxacin) Tablets, Oral Solution and Injection (July 2016) 2016年12月4日閲覧
  4. ^ 医薬品インタビューフォーム バレオン(塩酸ロメフロキサシン) - 2015年11月改訂(第9版) 2016年12月4日閲覧
  5. ^ 医薬品インタビューフォーム オゼックス錠(トスフロキサシントシル酸塩水和物) - 2011年2月改訂(改訂第14版) 2016年12月4日閲覧
  6. ^ Mandell LA, Wunderink RG, Anzueto A, etal (March 2007). “Infectious Diseases Society of America/American Thoracic Society consensus guidelines on the management of community-acquired pneumonia in adults”. Clinical Infectious Diseases 44 Suppl 2: S27–72. doi:10.1086/511159. PMID 17278083. 
  7. ^ MacDougall C, Guglielmo BJ, Maselli J, Gonzales R (March 2005). “Antimicrobial drug prescribing for pneumonia in ambulatory care”. Emerging Infectious Diseases 11 (3): 380–384. doi:10.3201/eid1103.040819. PMC 3298265. PMID 15757551. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3298265/. 
  8. ^ M Jacobs, Worldwide Overview of Antimicrobial Resistance. International Symposium on Antimicrobial Agents and Resistance 2005.
  9. ^ Nelson, JM.; Chiller, TM.; Powers, JH.; Angulo, FJ. (April 2007). “Fluoroquinolone-resistant Campylobacter species and the withdrawal of fluoroquinolones from use in poultry: a public health success story”. Clinical Infectious Diseases 44 (7): 977–980. doi:10.1086/512369. PMID 17342653. 
  10. ^ Linder JA, Huang ES, Steinman MA, Gonzales R, Stafford RS (March 2005). “Fluoroquinolone prescribing in the United States: 1995 to 2002”. The American Journal of Medicine 118 (3): 259–268. doi:10.1016/j.amjmed.2004.09.015. PMID 15745724. 
  11. ^ K08 HS14563 and HS11313
  12. ^ Neuhauser, MM; Weinstein, RA; Rydman, R; Danziger, LH; Karam, G; Quinn, JP (2003). “Antibiotic resistance among gram-negative bacilli in US intensive care units: implications for fluoroquinolone use”. JAMA: The Journal of the American Medical Association 289 (7): 885–888. doi:10.1001/jama.289.7.885. PMID 12588273. オリジナルの7 May 2009時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20090507021140/http://www.ahrq.gov/research/nov07/1107RA29.htm. "From 1995 to 2002, inappropriate antibiotic prescribing for acute respiratory infections, which are usually caused by viruses and thus are not responsive to antibiotics, declined from 61 to 49 percent. However, the use of broad-spectrum antibiotics such as the fluoroquinolones, jumped from 41 to 77 percent from 1995 to 2001. Overuse of these antibiotics will eventually render them useless for treating antibiotic-resistant infections, for which broad-spectrum antibiotics are supposed to be reserved." 
  13. ^ Robicsek A, Jacoby GA, Hooper DC (October 2006). “The worldwide emergence of plasmid-mediated quinolone resistance”. Lancet Infect. Dis. 6 (10): 629–640. doi:10.1016/S1473-3099(06)70599-0. PMID 17008172. 
  14. ^ Morita Y, Kodama K, Shiota S, Mine T, Kataoka A, Mizushima T, Tsuchiya T (July 1998). “NorM, a Putative Multidrug Efflux Protein, of Vibrio parahaemolyticus and Its Homolog in Escherichia coli. Antimicrobial Agents and Chemotherapy 42 (7): 1778–1782. doi:10.1128/AAC.42.7.1778. PMC 105682. PMID 9661020. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC105682/.