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「ダイアクリティカルマーク」の版間の差分

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[[ラテン文字]]における主なダイアクリティカルマークの用途は、文字の[[音価]]の変更である。英語の例では、naïveやNoëlなど[[外来語]]表記の場合のトレマ([[トレマ|分音符]]、「¨」)による[[分音]](トレマ付きの[[母音]]はその前の母音とは分けて発音される)や、[[アキュート・アクセント|アキュート]]や[[グレイヴ・アクセント|グレイヴ]]等の[[アクセント符号]](saké等のように特に語尾において母音を発音することを示す)がある。他のラテン言語では[[同音異義語]]を区別する場合(フランス語のlàとla)に使用される例もある。[[ゲール文字]]では[[子音]]に付加され[[子音弱化]]を示す。
[[ラテン文字]]における主なダイアクリティカルマークの用途は、文字の[[音価]]の変更である。英語の例では、naïveやNoëlなど[[外来語]]表記の場合のトレマ([[トレマ|分音符]]、「¨」)による[[分音]](トレマ付きの[[母音]]はその前の母音とは分けて発音される)や、[[アキュート・アクセント|アキュート]]や[[グレイヴ・アクセント|グレイヴ]]等の[[アクセント符号]](saké等のように特に語尾において母音を発音することを示す)がある。他のラテン言語では[[同音異義語]]を区別する場合(フランス語のlàとla)に使用される例もある。[[ゲール文字]]では[[子音]]に付加され[[子音弱化]]を示す。


他の[[アルファベット]]体系では、ダイアクリティカルマークが他の機能を示す場合もある。[[アラビア語]]における[[シャクル]]([[発音記号]])の母音記号(ハラカ)や、[[ヘブライ語]]における[[ニクダー]]が母音や[[声調]]を表示する。[[ブラーフミー系文字]]の[[ヴィラーマ]]やアラビア語の[[スクーン]]は母音がなく子音のみで発音することを示す。ヘブライ語では[[韻律 (言語学)|韻律]](朗読の際の節回し)を示す記号もある。初期[[キリル文字]]の[[ティトロ]]は[[略語]]や[[頭字語]]を示す。[[タイ文字]]や[[中国語]]のローマ字表記である[[ピン音|拼音]]では、[[音節]]の[[声調]]が表示される。
他の[[アルファベット]]体系では、ダイアクリティカルマークが他の機能を示す場合もある。[[アラビア語]]における[[シャクル]]([[発音記号]])の母音記号(ハラカ)や、[[ヘブライ語]]における[[ニクダー]]が母音や[[声調]]を表示する。[[ブラーフミー系文字]]の[[ヴィラーマ]]やアラビア語の[[スクーン]]は母音がなく子音のみで発音することを示す。ヘブライ語では[[韻律 (言語学)|韻律]](朗読の際の節回し)を示す記号もある。初期[[キリル文字]]の[[ティトロ]]は[[略語]]や[[頭字語]]を示す。[[タイ文字]]や[[中国語]]のローマ字表記である[[ピン音|拼音]]では、[[音節]]の声調が表示される。


== コンピュータ ==
== コンピュータ ==
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|[[アクセント符号|アクセント]]<br>Accent mark||(下を参照)||元来は[[古典ギリシア語]]を読み下す際に用いられた補助記号に由来。一般に、グレイブ・アクセント、アキュート・アクセント、サーカムフレックスの3種類を指す。
|[[アクセント符号|アクセント]]<br>Accent mark||(下を参照)||元来は[[古典ギリシア語]]を読み下す際に用いられた補助記号に由来。一般に、グレイブ・アクセント、アキュート・アクセント、サーカムフレックスの3種類を指す。
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|[[グレイヴ・アクセント]]<br>Grave accent||style="font-size:x-large"|{{Unicode|à, è, ì, ò, ù}}||[[イタリア語]]では強勢符号に使用。フランス語では{{Unicode|'''à, è, ù'''}}のみ使用。中国語の拼音の第4声(下降)の[[声調]]符号にも使用され、[[ウムラウト]]と組み合わせた{{Unicode|'''ǜ'''}}も用いられる。
|[[グレイヴ・アクセント]]<br>Grave accent||style="font-size:x-large"|{{Unicode|à, è, ì, ò, ù}}||[[イタリア語]]では強勢符号に使用。フランス語では{{Unicode|'''à, è, ù'''}}のみ使用。中国語の拼音の第4声(下降)の[[声調]]符号にも使用され、ウムラウトと組み合わせた{{Unicode|'''ǜ'''}}も用いられる。
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|[[アキュート・アクセント]]<br>Acute accent||style="font-size:x-large"|{{Unicode|á, é, í, ó, ú}}||スペイン語、イタリア語で強勢符号に使用。フランス語では{{Unicode|'''é'''}}のみ使用し{{IPA|e}}を表す。ハンガリー語では長音符として使用。中国語ピンインの第2声(上昇)の[[声調]]符号にも使用され、[[ウムラウト]]と組み合わせた{{Unicode|'''ǘ'''}}も用いられる。
|[[アキュート・アクセント]]<br>Acute accent||style="font-size:x-large"|{{Unicode|á, é, í, ó, ú}}||スペイン語、イタリア語で強勢符号に使用。フランス語では{{Unicode|'''é'''}}のみ使用し{{IPA|e}}を表す。ハンガリー語では長音符として使用。中国語ピンインの第2声(上昇)の声調符号にも使用され、ウムラウトと組み合わせた{{Unicode|'''ǘ'''}}も用いられる。
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|[[サーカムフレックス]]<br>Circumflex||style="font-size:x-large"|{{Unicode|â, ê, î, ô, û}}||フランス語、[[ポルトガル語]]、[[ベトナム語]](さらにこの上に声調を示すものがつく)、[[人工言語]]である[[エスペラント]]などで使用(但しエスペラントでの場合、これがつくのは全て[[子音]]字である)。[[日本語]]の[[ローマ字]]表記でも使用される。
|[[サーカムフレックス]]<br>Circumflex||style="font-size:x-large"|{{Unicode|â, ê, î, ô, û}}||フランス語、[[ポルトガル語]]、[[ベトナム語]](さらにこの上に声調を示すものがつく)、[[人工言語]]である[[エスペラント]]などで使用(但しエスペラントでの場合、これがつくのは全て[[子音]]字である)。[[日本語]]の[[ローマ字]]表記でも使用される。
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|[[コンマビロー]]<br>Comma below||style="font-size:x-large"|{{Unicode|ș, ț}}||セディーユの変種で、親字との間に隙間がある。[[ルーマニア語]]で用いるが、セディーユも同様に用いられ、両者の間に区別はない。
|[[コンマビロー]]<br>Comma below||style="font-size:x-large"|{{Unicode|ș, ț}}||セディーユの変種で、親字との間に隙間がある。[[ルーマニア語]]で用いるが、セディーユも同様に用いられ、両者の間に区別はない。
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|[[マクロン]]<br>Macron||style="font-size:x-large"|{{Unicode|ā, ē, ī, ō, ū}}||もともとは[[ラテン語]]の学習に用いられたもので、ほとんどの場合長音を表す。[[ラトビア語]]や[[ポリネシア諸語|ポリネシアの諸言語]]などで使用。日本語のローマ字表記でも[[長音]]の表示に使用されることが多い。中国語の拼音の第1声(高平)の[[声調]]符号にも使用され、[[ウムラウト]]と組み合わせた{{Unicode|'''ǖ'''}}も用いられる。
|[[マクロン]]<br>Macron||style="font-size:x-large"|{{Unicode|ā, ē, ī, ō, ū}}||もともとは[[ラテン語]]の学習に用いられたもので、ほとんどの場合長音を表す。[[ラトビア語]]や[[ポリネシア諸語|ポリネシアの諸言語]]などで使用。日本語のローマ字表記でも[[長音]]の表示に使用されることが多い。中国語の拼音の第1声(高平)の声調符号にも使用され、ウムラウトと組み合わせた{{Unicode|'''ǖ'''}}も用いられる。
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|[[ブレーヴェ]]<br>Breve||style="font-size:x-large"|{{Unicode|ă, ğ, ŭ}}||もともとはラテン語の学習に用いられたもので、breve(短く)の名のとおり、伝統的には短音記号とも呼ばれるが、現代の諸言語では実際には必ずしも短音を表すとは限らない。{{Unicode|'''ğ'''}}は[[トルコ語]]に現れる。{{Unicode|'''ŭ'''}}は人工言語であるエスペラントで使用され、短い“u”の音、即ち“w”の発音を指定する(但し、下記ハーチェクと混同されている状態である)。{{Unicode|'''ă'''}}はルーマニア語やベトナム語(さらにこの上に声調を示すものがつく)で独特の母音価の表現にあてられている。
|[[ブレーヴェ]]<br>Breve||style="font-size:x-large"|{{Unicode|ă, ğ, ŭ}}||もともとはラテン語の学習に用いられたもので、breve(短く)の名のとおり、伝統的には短音記号とも呼ばれるが、現代の諸言語では実際には必ずしも短音を表すとは限らない。{{Unicode|'''ğ'''}}は[[トルコ語]]に現れる。{{Unicode|'''ŭ'''}}は人工言語であるエスペラントで使用され、短い“u”の音、即ち“w”の発音を指定する(但し、下記ハーチェクと混同されている状態である)。{{Unicode|'''ă'''}}はルーマニア語やベトナム語(さらにこの上に声調を示すものがつく)で独特の母音価の表現にあてられている。
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|[[リング符号|リング]]<br>Ring||style="font-size:x-large"|{{Unicode|å, ů}}||文字の上に小さく書かれていたoの字が起源。{{Unicode|'''å'''}}は[[スカンジナビア]]諸語で「オー」のような音を表す。{{Unicode|'''ů'''}}は[[チェコ語]]などで使用。
|[[リング符号|リング]]<br>Ring||style="font-size:x-large"|{{Unicode|å, ů}}||文字の上に小さく書かれていたoの字が起源。{{Unicode|'''å'''}}は[[スカンジナビア]]諸語で「オー」のような音を表す。{{Unicode|'''ů'''}}は[[チェコ語]]などで使用。
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|[[ハーチェク]]<br>Haček/Caron||style="font-size:x-large"|{{Unicode|ě, č, š, ž, ř}}||[[スラブ語派|スラブ系]]のいくつかの言語で使用。ほかにリトアニア語でも。{{Unicode|'''ǎ''', '''ǐ''', '''ǒ''', '''ǔ'''}}や[[ウムラウト]]と組み合わせた{{Unicode|'''ǚ'''}}も中国語の拼音の第3声(降昇)の[[声調]]符号としても使用される。
|[[ハーチェク]]<br>Haček/Caron||style="font-size:x-large"|{{Unicode|ě, č, š, ž, ř}}||[[スラブ語派|スラブ系]]のいくつかの言語で使用。ほかにリトアニア語でも。{{Unicode|'''ǎ''', '''ǐ''', '''ǒ''', '''ǔ'''}}やウムラウトと組み合わせた{{Unicode|'''ǚ'''}}も中国語の拼音の第3声(降昇)の声調符号としても使用される。
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|[[ドット符号|ドット]]<br>Dot||style="font-size:x-large"|{{Unicode|ė, ẹ, ċ, ġ, ż}}||ポーランド語の{{Unicode|'''ż'''}}、リトアニア語の{{Unicode|'''ė'''}}、[[マルタ語]]の{{Unicode|'''ċ, ġ, ż'''}}など。ベトナム語では声調記号として母音字の下につく。
|[[ドット符号|ドット]]<br>Dot||style="font-size:x-large"|{{Unicode|ė, ẹ, ċ, ġ, ż}}||ポーランド語の{{Unicode|'''ż'''}}、リトアニア語の{{Unicode|'''ė'''}}、[[マルタ語]]の{{Unicode|'''ċ, ġ, ż'''}}など。ベトナム語では声調記号として母音字の下につく。

2018年4月24日 (火) 02:14時点における版

á
ダイアクリティカルマーク
アキュート
´
ダブルアキュート
˝
グレイヴ
`
ダブルグレイヴ
 ̏
ブレーヴェ
˘
倒置ブレーヴェ
 ̑
ハーチェク
ˇ
セディーユ
¸
サーカムフレックス
ˆ
トレマ / ウムラウト
¨
チルダ
˜
ドット符号
˙
フック
 ̡
フック符号
 ̉
ホーン符号
 ̛
マクロン
¯
オゴネク
˛
リング符号
˚
ストローク符号
̸
コンマアバブ
ʻ
コンマビロー
,
無気記号
᾿
非ラテン文字
シャクル  
シャッダ
 ّ
ハムザ
ء
キリル文字  
ティトロ
 ҃
ヘブライ文字  
ニクダー
 ִ
ブラーフミー系文字  
アヌスヴァーラ
 ं
ヴィラーマ
 ्
日本語  
濁点
半濁点
環境により表示できない文字があります
テンプレートを表示

ダイアクリティカルマーク英語: diacritical mark)または発音区別符号(はつおんくべつふごう)は、ラテン文字等の文字で、同じ字形の文字であるが、発音が区別されるべき場合に文字に付される記号のこと。あえて日本語の文字で似た概念を探せば、濁点半濁点に相当するであろう。満州文字における圏点もこれに類似したものといえる。

概要

日本語では、区分符号(区分記号)、補助符号(補助記号)、区別的発音符(区別的発音符号・区別的発音記号)、読み分け符号(読み分け記号)、分音符(分音符号・分音記号)等と訳される場合もある(ただし、分音符・分音符号・分音記号はトレマだけを指すのが普通)。『学術用語集 言語学編』では「補助記号」または「識別記号」の訳語が提案されている[1]

ダイアクリティカルマークが付いた文字の、付かない文字からの独立性の度合いは様々である。言語によって、正書法・標準表記の扱いにより、印刷によっては付けなくてもいいもの、必ず付けなくてはならないもの、付けられない場合は代替の手段をとることが決まっているもの、方言(地域、国等)によって付け方が異なるもの等がある(ローマ字表記された日本語においても、しばしば長音記号が省略されるが、省略された際には厳密な発音の判別が困難となる場合がある)。名称も、独立した名称のあるものとそうでないものがある。また、辞書の順序では、ダイアクリティカルマークがない場合と同じ場所に並べられるものと、独立した位置が決まっているものがある。

ラテン文字における主なダイアクリティカルマークの用途は、文字の音価の変更である。英語の例では、naïveやNoëlなど外来語表記の場合のトレマ(分音符、「¨」)による分音(トレマ付きの母音はその前の母音とは分けて発音される)や、アキュートグレイヴ等のアクセント符号(saké等のように特に語尾において母音を発音することを示す)がある。他のラテン言語では同音異義語を区別する場合(フランス語のlàとla)に使用される例もある。ゲール文字では子音に付加され子音弱化を示す。

他のアルファベット体系では、ダイアクリティカルマークが他の機能を示す場合もある。アラビア語におけるシャクル発音記号)の母音記号(ハラカ)や、ヘブライ語におけるニクダーが母音や声調を表示する。ブラーフミー系文字ヴィラーマやアラビア語のスクーンは母音がなく子音のみで発音することを示す。ヘブライ語では韻律(朗読の際の節回し)を示す記号もある。初期キリル文字ティトロ略語頭字語を示す。タイ文字中国語のローマ字表記である拼音では、音節の声調が表示される。

コンピュータ

コンピュータ処理では、ダイアクリティカルマークのついた文字に独立した文字コードを与えているもの(ISO/IEC 8859UnicodeJIS X 0213など)が多いが、別の方法として、親字の前または後に特殊なコードを置くことによって表記する方法がある。前に置く例としてはISO/IEC 6937が、後に置く例としてはUnicodeでCombining Diacritical Marksと呼ばれる一連のコード(U+0300からU+036Fまで)がある。

種類と例

概観欄には主要な言語のみ挙げた。ここではラテン文字におけるダイアクリティカルマークの種類を挙げる。各記号の詳細については、それぞれの項目、さらに各言語の項目を参照のこと。

なお、言語名の後にカッコつきで示した綴りは、その言語におけるその記号の名称である。

種類 概観
ウムラウト
Umlaut
ä, ö, ü 文字の上に小さく書かれていたeの字が起源である。伝統的には例示した3種類のみで、ウムラウト現象によって前舌化した母音価を表す。ドイツ語Umlautzeichen)やスウェーデン語で使うほか、ö, üは前舌円唇系の母音をもつ多くの言語で使用。中国語拼音ではüのみ用いられる。
ダブルアキュート
Double acute
ő, ű ハンガリー語独特の記号で、ウムラウト記号の長音を意味する。
トレマ
Trema
ë, ï, ü, ÿ 見た目はウムラウトと同じ。フランス語tréma)、スペイン語crema, diéresis)、ギリシャ語διαίρεσις)などで、連続した母音字のどちらかに付けて、発音のルールを変更させるもの。またオランダ語では合字 ijÿのように表記することがある。
アクセント
Accent mark
(下を参照) 元来は古典ギリシア語を読み下す際に用いられた補助記号に由来。一般に、グレイブ・アクセント、アキュート・アクセント、サーカムフレックスの3種類を指す。
グレイヴ・アクセント
Grave accent
à, è, ì, ò, ù イタリア語では強勢符号に使用。フランス語ではà, è, ùのみ使用。中国語の拼音の第4声(下降)の声調符号にも使用され、ウムラウトと組み合わせたǜも用いられる。
アキュート・アクセント
Acute accent
á, é, í, ó, ú スペイン語、イタリア語で強勢符号に使用。フランス語ではéのみ使用し[e]を表す。ハンガリー語では長音符として使用。中国語ピンインの第2声(上昇)の声調符号にも使用され、ウムラウトと組み合わせたǘも用いられる。
サーカムフレックス
Circumflex
â, ê, î, ô, û フランス語、ポルトガル語ベトナム語(さらにこの上に声調を示すものがつく)、人工言語であるエスペラントなどで使用(但しエスペラントでの場合、これがつくのは全て子音字である)。日本語ローマ字表記でも使用される。
セディーユ
Cedilla
ç, ş 文字の下に小さく書かれていたzの字が起源。フランス語(cédille)やポルトガル語(cedilha)ではç[s]に用いる。ほかトルコ語系の言語でも使用。
コンマビロー
Comma below
ș, ț セディーユの変種で、親字との間に隙間がある。ルーマニア語で用いるが、セディーユも同様に用いられ、両者の間に区別はない。
マクロン
Macron
ā, ē, ī, ō, ū もともとはラテン語の学習に用いられたもので、ほとんどの場合長音を表す。ラトビア語ポリネシアの諸言語などで使用。日本語のローマ字表記でも長音の表示に使用されることが多い。中国語の拼音の第1声(高平)の声調符号にも使用され、ウムラウトと組み合わせたǖも用いられる。
ブレーヴェ
Breve
ă, ğ, ŭ もともとはラテン語の学習に用いられたもので、breve(短く)の名のとおり、伝統的には短音記号とも呼ばれるが、現代の諸言語では実際には必ずしも短音を表すとは限らない。ğトルコ語に現れる。ŭは人工言語であるエスペラントで使用され、短い“u”の音、即ち“w”の発音を指定する(但し、下記ハーチェクと混同されている状態である)。ăはルーマニア語やベトナム語(さらにこの上に声調を示すものがつく)で独特の母音価の表現にあてられている。
チルダ
Tilde
ñ, ã, õ 文字の上に小さく書かれていたnの字が起源。スペイン語(tilde) のñは“ニャ行音”、ポルトガル語にはã, õが現れる。母音につく場合は鼻母音を表すのが慣例。ベトナム語では声調記号として母音字につく。
オゴネク
Ogonek/Nosinė
ą, ę, į, ǫ, ų ポーランド語ogonek)、リトアニア語などで使用。鼻母音や、かつて鼻母音であった母音。
リング
Ring
å, ů 文字の上に小さく書かれていたoの字が起源。åスカンジナビア諸語で「オー」のような音を表す。ůチェコ語などで使用。
ハーチェク
Haček/Caron
ě, č, š, ž, ř スラブ系のいくつかの言語で使用。ほかにリトアニア語でも。ǎ, ǐ, ǒ, ǔやウムラウトと組み合わせたǚも中国語の拼音の第3声(降昇)の声調符号としても使用される。
ドット
Dot
ė, ẹ, ċ, ġ, ż ポーランド語のż、リトアニア語のėマルタ語ċ, ġ, żなど。ベトナム語では声調記号として母音字の下につく。
ストローク
Stroke
ø, ł øはスウェーデン語を除く北ゲルマン諸言語で用い、öに同等と考えてほぼ差し支えない。łはポーランド語で使用し、[w]に近い音。
ホーン
Horn
ơ, ư ベトナム語(さらにこの上に声調を示すものがつく)で使用。ヨーロッパ語に余り現れない音価を表すために創出されたもの。
フック
Hook
ả, ẻ, ỉ, ỏ, ủ ベトナム語で使用。声調を示す。

正書法に含まれないもの

以下は各言語の学習や国語学・言語学的な文脈においてのみ用いられるもの。 学習教材や研究文献以外の言語表記で目にすることはほとんどない。

種類 概観
ダブルグレイヴ
Double grave
ȁ, ȅ セルビア語クロアチア語スロベニア語で用いられるアクセント符号。

脚注

関連項目