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[[image:OdysseyAntiphates.png|thumb|350px|オデュッセウスの部下を襲うライストリューゴーン族の王アンティパテースと、その妻。]]
[[File:OdysseyAntiphates.png|thumb|320px|オデュッセウスの部下を襲うライストリューゴーン族の王アンティパテースと、その妻。[[ジョン・フラックスマン]]画。]]
'''ライストリューゴーン族'''('''Laistrygon''', {{lang-el-short|Λαιστρυγών}})、複数形'''ライストリューゴネス'''('''Laistrygones''', 希:Λαιστρυγόνες)は、[[ギリシア神話]]に登場する人喰い種族である。[[長母音]]を省略して'''ライストリュゴン族'''、'''ライストリュゴネス'''とも表記される。
'''ライストリューゴーン族'''({{lang-grc|'''Λαιστρυγών'''}} / {{lang|grc-Latn|Laistrygon}} 複数形: '''ライストリューゴネス'''({{lang|grc|'''Λαιστρυγόνες'''}} / {{lang|grc-Latn|Laistrygones}}))は、[[ギリシア神話]]に登場する人喰い種族である。[[長母音]]を省略して'''ライストリュゴン族'''、'''ライストリュゴネス'''とも表記される。


ライストリューゴーン族は、人間というより[[巨人 (伝説の生物)|巨人]]に近く、巨大な身体と怪力を持ち、残虐で、人を喰らったといわれる。[[オデュッセウス]]は[[トロイア]]から帰国する途中、[[アイオロス]]の島に次いで[[アンティパテース]]王が支配するライストリューゴーン族の国を訪れた。
ライストリューゴーン族は、人間というより[[巨人 (伝説の生物)|巨人]]に近く、巨大な身体と怪力を持ち、残虐で、人を喰らったといわれる。[[オデュッセウス]]は[[トロイア]]から帰国する途中、[[アイオロス]]の島に次いで[[アンティパテース]]王が支配するライストリューゴーン族の国を訪れた。


== 神話 ==
== 神話 ==
『[[オデュッセイア]]』によると、オデュッセウスはアイオロスの島を訪れたときに様々な風を袋に封じてもらい、順調に航海を進めた。しかし部下の一人が袋を開いてしまい、アイオロスの島に逆戻りしてしまった。オデュッセウスはアイオロスに助けを求めたが、アイオロスはオデュッセウスを神に嫌われた忌むべき者として追い払った。
[[ホメーロス]]の[[叙事詩]]『[[オデュッセイア]]』によると、オデュッセウスはアイオロスの島を訪れたときに様々な風を袋に封じてもらい、順調に航海を進めた。しかし部下の一人が袋を開いてしまい、アイオロスの島に逆戻りしてしまった。オデュッセウスはアイオロスに助けを求めたが、アイオロスはオデュッセウスを神に嫌われた忌むべき者として追い払った<ref>オデュッセイアー』10巻1行-79行。</ref>


その後、オデュッセウスは航海を続け、7日目にたどり着いたのがライストリューゴーン族の国だった。この土地は天にある昼の通る通路と夜の通る通路の間がとても狭かったので、夜に牧場から帰る者と、朝に牧場へ出かける者とが挨拶を交わすという珍しいことが起こり、眠らなくても平気な者は1日のうちに牛の世話と羊の世話ができるので、2人分の仕事ができたという<ref>ある解釈によると、[[白夜]]を指す、とされる松平の下記書の注、p.250・14。ロバート・グレーヴス、170・4 。</ref>。
その後、オデュッセウスは航海を続け、7日目にたどり着いたのがライストリューゴーン族の国だった。この土地は天にある昼の通る通路と夜の通る通路の間がとても狭かったので、夜に牧場から帰る者と、朝に牧場へ出かける者とが挨拶を交わすという珍しいことが起こり、眠らなくても平気な者は1日のうちに牛の世話と羊の世話ができるので、2人分の仕事ができたという{{efn|ある解釈によると、[[白夜]]を指す、とされる<ref>松平訳注、p.250・14。</ref><ref>ロバート・グレーヴス、170・4 。</ref>}}


オデュッセウスが到着したのはライストリューゴーン族の王(?)[[ラモス (ギリシア神話)|ラモス]]が創建したテーレピュロス市の天然の良港で、港は両側が絶壁に囲まれ、港の入口は両側から岬が突き出ていて狭くなっていた。またこの国にはアルタキエーという泉があって、ライストリューゴーン族はみなこの泉で水を汲んだ。
オデュッセウスが到着したのはライストリューゴーン族の王(?)[[ラモス (ギリシア神話)|ラモス]]が創建したテーレピュロス市の天然の良港で、港は両側が絶壁に囲まれ、港の入口は両側から岬が突き出ていて狭くなっていた。またこの国にはアルタキエーという泉があって、ライストリューゴーン族はみなこの泉で水を汲んだ。


オデュッセウスはテーレピュロスの港に入ると、港の一番外側に船団を停泊させ、岩壁を登って遠方を見渡した。しかし近くに人の住んでいる形跡がなかったので、オデュッセウスは3人の部下にこの土地を探索させた。部下たちはアルタキエーの泉の近くでアンティパテース王の娘に出会い、王の館の場所を聞いて訪れた。ところがアンティパテースは部下たちを見ると、すぐに1人を捕まえて料理し、食べてしまった。残った部下たちが驚いて船に逃げ戻ると、アンティパテースは大声でライストリューゴーン族を集め、オデュッセウスの船団を攻撃させた。彼らは大きな岩を投げつけて船を次々に粉砕し、オデュッセウスの部下たちを串刺しにして食料として持ち帰った。オデュッセウスはあわてて船を出航させたが、オデュッセウスの船しか残らなかった<ref>オデュッセイア』10巻。</ref><ref>ほか、アポロドーロス、摘要(E)12~13。ヒュギーヌス、125。</ref>。
オデュッセウスはテーレピュロスの港に入ると、港の一番外側に船団を停泊させ、岩壁を登って遠方を見渡した。しかし近くに人の住んでいる形跡がなかったので、オデュッセウスは3人の部下にこの土地を探索させた。部下たちはアルタキエーの泉の近くでアンティパテース王の娘に出会い、王の館の場所を聞いて訪れた。ところがアンティパテースは部下たちを見ると、すぐに1人を捕まえて料理し、食べてしまった。残った部下たちが驚いて船に逃げ戻ると、アンティパテースは大声でライストリューゴーン族を集め、オデュッセウスの船団を攻撃させた。彼らは大きな岩を投げつけて船を次々に粉砕し、オデュッセウスの部下たちを串刺しにして食料として持ち帰った。オデュッセウスはあわてて船を出航させたが、オデュッセウスの船しか残らなかった<ref>オデュッセイア』10巻80行-132行。</ref><ref>アポロドーロス、摘要(E)7・12-13</ref><ref>ヒュギーヌス、125。</ref>。


なお、後世になると、ライストリューゴーン族の国は[[シケリア島]]、あるいは[[イタリア]]の[[カンパーニア]]地方のフォルミアイであるとされた<ref>高津『辞典』p.294a。ロバート・グレーヴス、170・h。</ref>。
なお、後世になると、ライストリューゴーン族の国は[[シチリア|シケリア島]]、あるいは[[イタリア]]の[[カンパーニア]]地方のフォルミアイであるとされた<ref>高津春繁ギリシア・ローマ神話辞典』p.294a。</ref><ref>ロバート・グレーヴス、170・h。</ref>。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
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*[[アポロドーロス]]『ギリシア神話』[[高津春繁]]訳、[[岩波文庫]](1953年)
*[[ヒュギス]]『ギリシ神話松田治・青山照男訳、[[講談社学術文庫]](2005年)
* [[アポロドス]]『ギリシ神話』[[高津春繁]]訳、[[岩波文庫]](1953年)
*[[ホメロス]]『[[オデュッセイア]](上)』[[松平千秋]]訳、岩波文庫(1994年)
* [[ヒュギーヌス]]『ギリシャ神話集』[[松田治]]・青山照男訳、[[講談社学術文庫]](2005年)
*[[ロバート・グレーヴス|R・グレーヴス]]『ギリシ神話下巻)』[[高杉一郎]]訳、[[紀伊国屋書店]](1973年)
* [[ホメロス]]『[[オデュッセイ]])』[[松平千秋]]訳、岩波文庫(1994年)
*高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』、[[岩波書店]](1960年)
* [[ロバート・グレーヴス|R・グレーヴス]]『ギリシア神話(下巻)[[高杉一郎]]訳、[[紀伊国屋書店]](1973年)
* 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』[[岩波書店]](1960年)


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2022年3月19日 (土) 15:38時点における最新版

オデュッセウスの部下を襲うライストリューゴーン族の王アンティパテースと、その妻。ジョン・フラックスマン画。

ライストリューゴーン族古代ギリシア語: Λαιστρυγών / Laistrygon 複数形: ライストリューゴネスΛαιστρυγόνες / Laistrygones))は、ギリシア神話に登場する人喰い種族である。長母音を省略してライストリュゴン族ライストリュゴネスとも表記される。

ライストリューゴーン族は、人間というより巨人に近く、巨大な身体と怪力を持ち、残虐で、人を喰らったといわれる。オデュッセウストロイアから帰国する途中、アイオロスの島に次いでアンティパテース王が支配するライストリューゴーン族の国を訪れた。

神話

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ホメーロス叙事詩オデュッセイアー』によると、オデュッセウスはアイオロスの島を訪れたときに様々な風を袋に封じてもらい、順調に航海を進めた。しかし部下の一人が袋を開いてしまい、アイオロスの島に逆戻りしてしまった。オデュッセウスはアイオロスに助けを求めたが、アイオロスはオデュッセウスを神に嫌われた忌むべき者として追い払った[1]

その後、オデュッセウスは航海を続け、7日目にたどり着いたのがライストリューゴーン族の国だった。この土地は天にある昼の通る通路と夜の通る通路の間がとても狭かったので、夜に牧場から帰る者と、朝に牧場へ出かける者とが挨拶を交わすという珍しいことが起こり、眠らなくても平気な者は1日のうちに牛の世話と羊の世話ができるので、2人分の仕事ができたという[注釈 1]

オデュッセウスが到着したのはライストリューゴーン族の王(?)ラモスが創建したテーレピュロス市の天然の良港で、港は両側が絶壁に囲まれ、港の入口は両側から岬が突き出ていて狭くなっていた。またこの国にはアルタキエーという泉があって、ライストリューゴーン族はみなこの泉で水を汲んだ。

オデュッセウスはテーレピュロスの港に入ると、港の一番外側に船団を停泊させ、岩壁を登って遠方を見渡した。しかし近くに人の住んでいる形跡がなかったので、オデュッセウスは3人の部下にこの土地を探索させた。部下たちはアルタキエーの泉の近くでアンティパテース王の娘に出会い、王の館の場所を聞いて訪れた。ところがアンティパテースは部下たちを見ると、すぐに1人を捕まえて料理し、食べてしまった。残った部下たちが驚いて船に逃げ戻ると、アンティパテースは大声でライストリューゴーン族を集め、オデュッセウスの船団を攻撃させた。彼らは大きな岩を投げつけて船を次々に粉砕し、オデュッセウスの部下たちを串刺しにして食料として持ち帰った。オデュッセウスはあわてて船を出航させたが、オデュッセウスの船しか残らなかった[4][5][6]

なお、後世になると、ライストリューゴーン族の国はシケリア島、あるいはイタリアカンパーニア地方のフォルミアイであるとされた[7][8]

脚注

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注釈

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  1. ^ ある解釈によると、白夜を指す、とされる[2][3]

脚注

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  1. ^ オデュッセイアー』10巻1行-79行。
  2. ^ 松平訳注、p.250・14。
  3. ^ ロバート・グレーヴス、170・4 。
  4. ^ オデュッセイアー』10巻80行-132行。
  5. ^ アポロドーロス、摘要(E)7・12-13。
  6. ^ ヒュギーヌス、125話。
  7. ^ 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』p.294a。
  8. ^ ロバート・グレーヴス、170・h。

参考文献

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