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「サリチル酸」の版間の差分

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パラベンの製法
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'''サリチル酸'''(Salicylic acid)は、[[ベンゼン環]]に[[カルボキシル基]]と[[ヒドロキシル基]]両方を併せ持つ物質で、示式はC<sub>6</sub>H<sub>4</sub>(OH)CO<sub>2</sub>H、[[CAS登録番号]]は69-72-7。単体は無色の針状結晶である。となりあう水酸基の影響でカルボン酸としては異常に強い酸である。そのまま飲むと胃穿孔を起こし腹膜炎の原因となる。酸性を弱め胃を通過できるようにしたものがアセチルサリチル酸である。
'''サリチル酸'''(Salicylic acid)は、[[ベンゼン環]]に[[カルボキシル基]]と[[ヒドロキシル基]]両方を併せ持つ物質で、示式はC<sub>6</sub>H<sub>4</sub>(OH)CO<sub>2</sub>H、[[CAS登録番号]]は69-72-7。単体は無色の針状結晶である。となりあう水酸基の影響でカルボン酸としては異常に強い酸である。そのまま飲むと胃穿孔を起こし腹膜炎の原因となる。酸性を弱め胃を通過できるようにしたものがアセチルサリチル酸である。


[[1819年]]にイギリスの神父エドワード・ストーンが[[柳]]の解熱成分にサリシン(サリチル酸の[[配糖体]])と名付け、[[1838年]]にイタリアのラファエレ・ピエリがサリシンを分解してサリチル酸を発見した。名称は柳の学名(Salix Alba)にちなむ。日本でも「歯痛には柳楊枝」として知られていた。
[[1819年]]にイギリスの神父エドワード・ストーンが[[柳]]の解熱成分にサリシン(サリチル酸の[[配糖体]])と名付け、[[1838年]]にイタリアのラファエレ・ピエリがサリシンを分解してサリチル酸を発見した。名称は柳の学名(Salix Alba)にちなむ。日本でも「歯痛には柳楊枝」として知られていた。


[[1853年]]に[[マールブルグ]]のヘルマン・コルベ教授はサリチル酸の構造を解明し、その合成法を確立した。[[ナトリウムフェノキシド]]に高温、高圧(5~6気圧,125℃)で[[二酸化炭素]]を反応させると[[サリチル酸ナトリウム]]が合成される。サリチル酸ナトリウムに強酸を作用させるとサリチル酸が遊離する。これを[[コルベ・シュミット反応]]という。
[[1853年]]に[[マールブルグ]]のヘルマン・コルベ教授はサリチル酸の構造を解明し、その合成法を確立した。[[ナトリウムフェノキシド]]に高温、高圧(5~6気圧,125℃)で[[二酸化炭素]]を反応させるとオルト位にカルボキシル基が導入され(電離し)た[[サリチル酸ナトリウム]]が合成される。サリチル酸ナトリウムに強酸を作用させるとサリチル酸が遊離する。これを[[コルベ・シュミット反応]]という。

ちなみにカリウムフェノキシドに同条件で二酸化炭素を反応させるとパラ位にカルボキシル基が導入されたp-ヒドロキシ安息香酸が90%程度生じる。これのメチル~ブチルエステルは[[パラベン]]として防腐剤に用いる。


サリチル酸は天然にも広く認められ、[[植物]](特に果実)内に[[エステル]]の[[サリチル酸メチル]]([[消炎剤]]に用いられる)の状態で存在している。植物では、サリチル酸がウイルスやバクテリアなど様々な病原微生物に対する抵抗性(全身獲得抵抗性)を誘導する鍵となる物質として働くことが知られる。分子生物学による植物免疫研究の対象である。
サリチル酸は天然にも広く認められ、[[植物]](特に果実)内に[[エステル]]の[[サリチル酸メチル]]([[消炎剤]]に用いられる)の状態で存在している。植物では、サリチル酸がウイルスやバクテリアなど様々な病原微生物に対する抵抗性(全身獲得抵抗性)を誘導する鍵となる物質として働くことが知られる。分子生物学による植物免疫研究の対象である。

2005年11月20日 (日) 03:15時点における版

サリチル酸
名前 サリチル酸 アセチルサリチル酸
(アスピリン)
IUPAC名 2-hydroxybenzoic acid 2-acetoxybenzoic acid
化学式 C6H4(OH)CO2H C6H4(OCOCH3)CO2H
融点 159°C (318°F)  
沸点 211°C (412°F)  
構造式 ファイル:Salicylic acid.png ファイル:Aspirin.png

サリチル酸(Salicylic acid)は、ベンゼン環カルボキシル基ヒドロキシル基両方を併せ持つ物質で、示性式はC6H4(OH)CO2H、CAS登録番号は69-72-7。単体は無色の針状結晶である。となりあう水酸基の影響でカルボン酸としては異常に強い酸である。そのまま飲むと胃穿孔を起こし腹膜炎の原因となる。酸性を弱め胃を通過できるようにしたものがアセチルサリチル酸である。

1819年にイギリスの神父エドワード・ストーンがの解熱成分にサリシン(サリチル酸の配糖体)と名付け、1838年にイタリアのラファエレ・ピエリがサリシンを分解してサリチル酸を発見した。名称は柳の学名(Salix Alba)にちなむ。日本でも「歯痛には柳楊枝」として知られていた。

1853年マールブルグのヘルマン・コルベ教授はサリチル酸の構造を解明し、その合成法を確立した。ナトリウムフェノキシドに高温、高圧(5~6気圧,125℃)で二酸化炭素を反応させるとオルト位にカルボキシル基が導入され(電離し)たサリチル酸ナトリウムが合成される。サリチル酸ナトリウムに強酸を作用させるとサリチル酸が遊離する。これをコルベ・シュミット反応という。

ちなみにカリウムフェノキシドに同条件で二酸化炭素を反応させるとパラ位にカルボキシル基が導入されたp-ヒドロキシ安息香酸が90%程度生じる。これのメチル~ブチルエステルはパラベンとして防腐剤に用いる。

サリチル酸は天然にも広く認められ、植物(特に果実)内にエステルサリチル酸メチル(消炎剤に用いられる)の状態で存在している。植物では、サリチル酸がウイルスやバクテリアなど様々な病原微生物に対する抵抗性(全身獲得抵抗性)を誘導する鍵となる物質として働くことが知られる。分子生物学による植物免疫研究の対象である。

19世紀には、苦味が強い柳エキスに代わって鎮痛剤に使われたが、強い胃痛という副作用があった。その後、副作用がより少ないアセチルサリチル酸(アスピリン)に取って代わられることになる(→アスピリンの記事参照)。

日本では、明治12年(1879年)から飲食物の、明治36年(1903年)以降は防腐剤として用いられていたが、WHOの勧告や世論の反対運動などによって1969年に全面禁止となった。また、腐食作用を利用してイボ取りの薬の主成分となっている。