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[[和名]]は「たらばがに」、「鱈場蟹」「多羅波蟹」などの漢字表記がある<ref name="小学館日本国語大辞典"/>。ほかに、方言として「たらがに<ref name="小学館日本国語大辞典"/><ref name="倉上1925"/>」「いばらがに<ref name="倉上1925"/>」などがみられる。俗に「カニの王様」とも呼ばれる<ref name="jfrca"/>。 |
[[和名]]は「たらばがに」、「鱈場蟹」「多羅波蟹」などの漢字表記がある<ref name="小学館日本国語大辞典"/>。ほかに、方言として「たらがに<ref name="小学館日本国語大辞典"/><ref name="倉上1925"/>」「いばらがに<ref name="倉上1925"/>」などがみられる。俗に「カニの王様」とも呼ばれる<ref name="jfrca"/>。 |
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名称の由来は、生息域が[[タラ]]の[[漁場]](鱈場[たらば])と重なることに因るという<ref name="旺文社生物事典"/><ref name="小学館ニッポニカ"/><ref name="jfrca"/>。タラ漁師が誤って網を海底までおろしてしまい、網を引き上げてみると見たことのないカニが掛かっていたのがタラバガニ漁の起源である、との伝えもある<ref name="平凡社世界大百科"/>。 |
名称の由来は、生息域が[[タラ]]の[[漁場]](鱈場[たらば])と重なることに因るという<ref name="旺文社生物事典"/><ref name="小学館ニッポニカ"/><ref name="jfrca"/><ref name="FRA-200608"/>。異説として、かつては用途がなく漁村に山積みで放棄されていたことから「殻場」が語源だともいう<ref name="神港"/>。タラ漁師が誤って網を海底までおろしてしまい、網を引き上げてみると見たことのないカニが掛かっていたのがタラバガニ漁の起源である、との伝えもある<ref name="平凡社世界大百科"/>。 |
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標準和名「タラバガニ」は、和名「たらばがに」を[[生物学]]が、学術名として引き継いだものである。「カニ」の名称は学術的には問題があるが、広く普及している通俗名を重視する姿勢をもって、改められることなく採用された。 |
標準和名「タラバガニ」は、和名「たらばがに」を[[生物学]]が、学術名として引き継いだものである。「カニ」の名称は学術的には問題があるが、広く普及している通俗名を重視する姿勢をもって、改められることなく採用された。 |
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=== その他の言語 === |
=== その他の言語 === |
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[[英語]]では{{lang|en|king crab}}<ref name="平凡社世界大百科"/><ref name="研究社新英和"/>。または、[[w:King crab|king crab]] という大グループのうちの一種との認識で、{{lang|en|red king crab}} ([[仮名 (文字)|仮名]][[転写 (言語学)|転写]]:レッドキングクラブ)と呼ばれる。なお、[[カブトガニ]]も同じ英名 King Crab と呼ばれる<ref name="研究社新英和"/>。こちらはカニではなく、[[クモ]]に近い動物である。 |
[[英語]]では「{{lang|en|king crab}}<ref name="平凡社世界大百科"/><ref name="研究社新英和"/>」。または、「[[w:King crab|king crab]] 」という大グループのうちの一種との認識で、「{{lang|en|red king crab}}<ref name="神港"/><ref name="FRA-200608"/> 」([[仮名 (文字)|仮名]][[転写 (言語学)|転写]]:レッドキングクラブ)や、「{{lang|en|alaska king crab}}<ref name="神港"/>」(仮名転写:アラスカキングクラブ)と呼ばれる。なお、[[カブトガニ]]も同じ英名 King Crab と呼ばれる<ref name="研究社新英和"/>。こちらはカニではなく、[[クモ]]に近い動物である。 |
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[[ロシア語]]では「{{lang|ru|Камчатский краб}}」(仮名転写:カムチャツキイクラブ)<ref name="露-discover"/>。 |
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[[北欧]]では「Stalin’s Crab」(スターリンズクラブ、[[ヨシフ・スターリン]]のカニの意)との俗称がある<ref name="MS-20160825"/>。もともと[[バレンツ海]]にはタラバガニは分布していなかったが、ロシアから人為的に導入されたものが外来種として増殖した。これは1960年代にロシア科学者が漁業資源を増やす目的だったと考えられているが<ref name="NOR-seafood"/><ref name="MS-20160825"/>、それより以前の第2次世界大戦前にスターリンが飢餓対策としてカムチャツカから導入したという俗伝もある<ref name="NOR-seafood"/><ref name="MS-20160825"/>。 |
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== 分類 == |
== 分類 == |
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外観上は明らかにカニに見え、呼称も「カニ」(crab)というが、生物分類学上はカニ([[短尾類]])ではなくヤドカリ([[異尾類]])の仲間に位置づけられている<ref name="平凡社世界大百科"/>。カニではなくヤドカリに分類される主な理由は、メスの腹部が左右非対称で腹肢が左側だけにしかない<ref name="小学館ニッポニカ"/><ref name="平凡社世界大百科"/>、第5脚(胸脚のうち最後のもの)が小さく鰓室内にさしこまれている<ref name="小学館ニッポニカ"/><ref name="平凡社世界大百科"/><ref name="小学館日本国語大辞典"/>(このため、ふつうのカニはハサミを含めて脚が5対(10本)なのに対し、タラバガニは脚が4対(8本)しかないように見える<ref name="小学館日本国語大辞典"/><ref name="FRA-200608"/>)ことなどによる。ほかにも、メスの生殖孔が第2歩脚の底節にある<ref name="小学館ニッポニカ"/>、オスに交尾器がない<ref name="小学館ニッポニカ"/>、はさみ脚の長節が腕節より短い<ref name="小学館ニッポニカ"/>、といった身体的特徴がヤドカリと合致する。 |
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*古典的な分類<ref name="倉上1925"/> |
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******[[タラバガニ属]] |
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タラバガニ属とその下位分類5種(タラバガニとその近縁種) |
タラバガニ属とその下位分類5種(タラバガニとその近縁種) |
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* '''[[タラバガニ属]] ''Paralithodes'' Brandt, 1848'''<ref name="ITIS-97934"/> |
* '''[[タラバガニ属]] ''Paralithodes'' Brandt, 1848'''<ref name="ITIS-97934"/> |
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[[食性]]は[[肉食]]で[[多毛類]]、[[貝類]]など様々な[[小動物]]を[[捕食]]する。一方、[[天敵]]としては、人間以外にも[[オオカミウオ]]や[[ミズダコ]]などがいる。 |
[[食性]]は[[肉食]]で[[多毛類]]、[[貝類]]など様々な[[小動物]]を[[捕食]]する。一方、[[天敵]]としては、人間以外にも[[オオカミウオ]]や[[ミズダコ]]などがいる。 |
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なお、[[ロシア]]・[[ノルウェー]]国境沖の[[バレンツ海]]には分布していなかったが、[[1960年代]]に旧・[[ソビエト連邦]]の科学者がバレンツ海に[[放流]]し、繁殖させることに成功した。[[1980年代]]後半から[[ノルウェー]]沖でも生息が観察されるようになり、現在{{いつ|date=2013年6月}}でも分布域を広げつつある。この[[個体群]]は[[ロシア]]・[[ノルウェー]]両国で[[漁業]][[資源]]として利用されているが、[[天敵]]がいない環境で爆発的繁殖を遂げ、[[外来種]]として既存の生態系を脅かす存在ともなっている<ref name="NHK-20141011"/> |
なお、[[ロシア]]・[[ノルウェー]]国境沖の[[バレンツ海]]には分布していなかったが、[[1960年代]]に旧・[[ソビエト連邦]]の科学者がバレンツ海に[[放流]]し、繁殖させることに成功した。[[1980年代]]後半から[[ノルウェー]]沖でも生息が観察されるようになり、現在{{いつ|date=2013年6月}}でも分布域を広げつつある。この[[個体群]]は[[ロシア]]・[[ノルウェー]]両国で[[漁業]][[資源]]として利用されているが、[[天敵]]がいない環境で爆発的繁殖を遂げ、[[外来種]]として既存の生態系を脅かす存在ともなっている<ref name="NHK-20141011"/>。 |
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4月から6月に浅場で[[産卵]]し、成体は水深30- 350m程度の砂泥底に生息するが、若い個体は[[浅海]]にも生息する。水温の低い[[緯度|高緯度]]海域ほど浅い場所に生息する。オス・メス共に[[孵化]]後、4年程度で成熟した後に[[繁殖]]を行い、15年程度[[生存]]する。メス1匹あたりの孵化数は、高齢個体ほど多いと考えられる。種苗稚ガニ生産用に育成した個体では、16,000粒から80,000粒程度を抱卵した。 |
4月から6月に浅場で[[産卵]]し、成体は水深30- 350m程度の砂泥底に生息するが、若い個体は[[浅海]]にも生息する。水温の低い[[緯度|高緯度]]海域ほど浅い場所に生息する。オス・メス共に[[孵化]]後、4年程度で成熟した後に[[繁殖]]を行い、15年程度[[生存]]する。メス1匹あたりの孵化数は、高齢個体ほど多いと考えられる。種苗稚ガニ生産用に育成した個体では、16,000粒から80,000粒程度を抱卵した。 |
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{{要出典|date=2018-01|また、アブラガニのほかにも[[イバラガニ]](学名:''Lithodes turritus''<!-- Ortmann, [[1892年|1892]]-->)など多くの近縁種を抱えているので、こちらも偽装に使われるのではないかと指摘する関係者も存在する。}} |
{{要出典|date=2018-01|また、アブラガニのほかにも[[イバラガニ]](学名:''Lithodes turritus''<!-- Ortmann, [[1892年|1892]]-->)など多くの近縁種を抱えているので、こちらも偽装に使われるのではないかと指摘する関係者も存在する。}} |
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===文 |
===文学=== |
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「タラバガニ」は冬の季語<ref name="小学館日本国語大辞典"/>。 |
本来は、タラバガニの漁期は春から夏の間であるが<ref name="神港"/>、「タラバガニ」は冬の季語になっている<ref name="小学館日本国語大辞典"/><ref name="神港"/>。日本では[[小林多喜二]]の『[[蟹工船]]』でも知られる<ref name="神港"/>。 |
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==脚注== |
==脚注== |
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*<ref name="研究社新英和">[[研究社]]、編者代表・[[竹林滋]]、『[[新英和大辞典]]』(第6版第10刷)、2015。ISBN 978-4-7674-1016-6</ref> |
*<ref name="研究社新英和">[[研究社]]、編者代表・[[竹林滋]]、『[[新英和大辞典]]』(第6版第10刷)、2015。ISBN 978-4-7674-1016-6</ref> |
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*<ref name="神港">神港魚類株式会社([[マルハ|マルハ株式会社]]グループ)、「日本の旬・魚の話」、「[http://www.maruha-shinko.co.jp/uodas/syun/94-tarabagani.html 鱈場蟹(たらばがに)]」。2020年11月8日閲覧。</ref> |
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*<ref name="FRA-200608">独立行政法人[[水産総合研究センター]]、NEWS LETTER、「おさかな瓦版」第12号(2006年8月)、シリーズ:北の海のさかなたち、{{PDFlink|[http://www.fra.affrc.go.jp/bulletin/letter/no12.pdf 「第4回 タラバガニ」]}}。2020年11月8日閲覧。</ref> |
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*<ref name="露-discover">[[ディスカバリーチャンネル]]、[https://www.discoverychannel.ru/articles/kak-kamchatskiy-krab-okazalsya-v-barentsevom-more/ Как камчатский краб оказался в Баренцевом море?]。2020年11月8日閲覧。</ref> |
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*<ref name="NOR-seafood">[[ノルウェー]](ノルウェー王国大使館)、「SEWFOOD FROM NORWAY」(ノルウェー産シーフード)[https://seafoodfromnorway.jp/seafood-from-norway/red-king-crab/ タラバガニ]。2020年11月8日閲覧。</ref> |
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*<ref name="MS-20160825">[[:en:Morning Star (British newspaper)|Morning Star]]、2016年8月25日付、[https://morningstaronline.co.uk/a-2057-stalins-crab-all-set-to-take-over-the-northern-seas-1 Stalin’s crab all set to take over the northern seas]。2020年11月8日閲覧。</ref> |
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2020年11月8日 (日) 10:10時点における版
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タラバガニ | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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タラバガニ
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分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Paralithodes camtschaticus (Tilesius, 1815) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
タラバガニ | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Red king crab |
100 gあたりの栄養価 | |
---|---|
エネルギー | 351 kJ (84 kcal) |
0 g | |
食物繊維 | 0 g |
0.6 g | |
飽和脂肪酸 | 0.09 g |
一価不飽和 | 0.08 g |
多価不飽和 | 0.13 g |
18.29 g | |
トリプトファン | 0.255 g |
トレオニン | 0.741 g |
イソロイシン | 0.887 g |
ロイシン | 1.452 g |
リシン | 1.592 g |
メチオニン | 0.515 g |
シスチン | 0.205 g |
フェニルアラニン | 0.773 g |
チロシン | 0.609 g |
バリン | 0.861 g |
アルギニン | 1.598 g |
ヒスチジン | 0.372 g |
アラニン | 1.036 g |
アスパラギン酸 | 1.891 g |
グルタミン酸 | 3.12 g |
グリシン | 1.103 g |
プロリン | 0.603 g |
セリン | 0.72 g |
ビタミン | |
ビタミンA相当量 |
(1%) 7 µg |
チアミン (B1) |
(4%) 0.043 mg |
リボフラビン (B2) |
(4%) 0.043 mg |
ナイアシン (B3) |
(7%) 1.1 mg |
パントテン酸 (B5) |
(7%) 0.35 mg |
ビタミンB6 |
(12%) 0.15 mg |
葉酸 (B9) |
(11%) 44 µg |
ビタミンB12 |
(375%) 9 µg |
ビタミンC |
(8%) 7 mg |
ミネラル | |
ナトリウム |
(56%) 836 mg |
カリウム |
(4%) 204 mg |
カルシウム |
(5%) 46 mg |
マグネシウム |
(14%) 49 mg |
リン |
(31%) 219 mg |
鉄分 |
(5%) 0.59 mg |
亜鉛 |
(63%) 5.95 mg |
マンガン |
(2%) 0.035 mg |
セレン |
(52%) 36.4 µg |
他の成分 | |
水分 | 79.57 g |
| |
%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 出典: USDA栄養データベース |
タラバガニ(鱈場蟹、学名:Paralithodes camtschaticus、英語:Red king crab)は十脚目(エビ目) - 異尾下目(ヤドカリ下目) - タラバガニ科 - タラバガニ属に分類される甲殻類の一種。タラバガニ属はタラバガニを含む5種からなる。
生物分類学上はカニ下目ではなくヤドカリ下目に分類されているが[1][2]、水産業・貿易統計等の分野ではカニの一種として取り扱われており[3][2]、重要な水産資源の一種に位置づけられている[2][1]。
呼称
学名
種小名は camtschaticus[4]。分布域内にあるカムチャツカ半島に由来する。種小名は女性形 camtschatica が用いられることもあるが、属名の Paralithodes は男性形なので、同じく男性形の camtschaticus を使用するのが望ましい。
和名
和名は「たらばがに」、「鱈場蟹」「多羅波蟹」などの漢字表記がある[1]。ほかに、方言として「たらがに[1][5]」「いばらがに[5]」などがみられる。俗に「カニの王様」とも呼ばれる[2]。
名称の由来は、生息域がタラの漁場(鱈場[たらば])と重なることに因るという[6][4][2][7]。異説として、かつては用途がなく漁村に山積みで放棄されていたことから「殻場」が語源だともいう[8]。タラ漁師が誤って網を海底までおろしてしまい、網を引き上げてみると見たことのないカニが掛かっていたのがタラバガニ漁の起源である、との伝えもある[9]。
標準和名「タラバガニ」は、和名「たらばがに」を生物学が、学術名として引き継いだものである。「カニ」の名称は学術的には問題があるが、広く普及している通俗名を重視する姿勢をもって、改められることなく採用された。
その他の言語
英語では「king crab[9][10]」。または、「king crab 」という大グループのうちの一種との認識で、「red king crab[8][7] 」(仮名転写:レッドキングクラブ)や、「alaska king crab[8]」(仮名転写:アラスカキングクラブ)と呼ばれる。なお、カブトガニも同じ英名 King Crab と呼ばれる[10]。こちらはカニではなく、クモに近い動物である。
ロシア語では「Камчатский краб」(仮名転写:カムチャツキイクラブ)[11]。
北欧では「Stalin’s Crab」(スターリンズクラブ、ヨシフ・スターリンのカニの意)との俗称がある[12]。もともとバレンツ海にはタラバガニは分布していなかったが、ロシアから人為的に導入されたものが外来種として増殖した。これは1960年代にロシア科学者が漁業資源を増やす目的だったと考えられているが[13][12]、それより以前の第2次世界大戦前にスターリンが飢餓対策としてカムチャツカから導入したという俗伝もある[13][12]。
分類
外観上は明らかにカニに見え、呼称も「カニ」(crab)というが、生物分類学上はカニ(短尾類)ではなくヤドカリ(異尾類)の仲間に位置づけられている[9]。カニではなくヤドカリに分類される主な理由は、メスの腹部が左右非対称で腹肢が左側だけにしかない[4][9]、第5脚(胸脚のうち最後のもの)が小さく鰓室内にさしこまれている[4][9][1](このため、ふつうのカニはハサミを含めて脚が5対(10本)なのに対し、タラバガニは脚が4対(8本)しかないように見える[1][7])ことなどによる。ほかにも、メスの生殖孔が第2歩脚の底節にある[4]、オスに交尾器がない[4]、はさみ脚の長節が腕節より短い[4]、といった身体的特徴がヤドカリと合致する。
- 古典的な分類[5]
- 十脚目
- 異尾(えび)亜目
- 寄居蟲(やどかり)族
- たらばがに科
- たらばがに属
- たらばがに
- たらばがに属
- たらばがに科
- 寄居蟲(やどかり)族
- 異尾(えび)亜目
- 現代の分類
タラバガニ属とその下位分類5種(タラバガニとその近縁種)
近縁種として、北日本沿岸に分布するタラバガニ属(学名:genus Paralithodes)として、タラバガニ(学名:P. camtschaticus、英語名:red king crab)のほかに、アブラガニ(学名:P. platypus、英語名:blue king crab)と ハナサキガニ(学名:P. brevipes)、北太平洋東岸の P. californiensis (英語名:California king crab)、および、P. rathbuni の4種類がある。前3者はどれもタラバガニ同様重要な食用種となっている。
そのほか、チリ・アルゼンチン付近に分布する南タラバガニ(学名:Lithodes santolla、英語名:Southern king crab)、Lithodes Turkayi(英語名:South Atlantic king crab)や南極イバラガニ(学名:Paralomis spinosissima、英語名:Antarctic stone crab)も食用種として捕獲されている。
生物的特徴
形態等
甲幅は25cmほどで、脚を広げると1mを超える大型甲殻類である。全身が短い棘状突起で覆われている。 食用として流通する際は茹でられて赤橙色になったもの(外骨格に含まれる成分であるアスタキサンチンが加熱によって可視化したもの)が多いが、生体は背中側が暗紫色、腹側が淡黄色をしている。
甲は丸みがあり、やや前方に尖った五角形をしている。両脇が盛りあがり、複眼の間に尖った額角、中央に"H"型の溝がある。なお、心域(H字の中央下の区画)に6つの突起があり、ここで近縁種のアブラガニ(突起が4つだけ)と区別できるが、稀に5本の個体(アブラガニ)も見つかる[20]。
5対の歩脚のうち、第1歩脚は、鋏脚で、右の鋏が左より大きい。太くて長い歩脚の中では第3脚が特に長い。第5歩脚は小さくて鰓室(さいしつ)に差し込まれており、鰓(えら)の掃除をする役割がある。このため外見はほぼ「カニ」であるが、脚が3対しかないように見える。他にもメスの腹部の左右が異なり、腹肢が左側のみにあることなど、ヤドカリ類の特徴がある。また、横方向に移動するのが一般的であるカニに対して、タラバガニは縦方向にも移動ができる。顔立ちもよく見ると、カニ類よりは、ヤドカリ類に近い特徴を備えていることがわかる。
分布・生態
日本海、オホーツク海、ベーリング海を含む北太平洋と北極海のアラスカ沿岸、ガラパゴス諸島、チリ、アルゼンチン付近に分布する。日本の太平洋沿岸では、駿河湾や徳島県沖の水深約850- 約1,100mの海域での捕獲も記録されている。
食性は肉食で多毛類、貝類など様々な小動物を捕食する。一方、天敵としては、人間以外にもオオカミウオやミズダコなどがいる。
なお、ロシア・ノルウェー国境沖のバレンツ海には分布していなかったが、1960年代に旧・ソビエト連邦の科学者がバレンツ海に放流し、繁殖させることに成功した。1980年代後半からノルウェー沖でも生息が観察されるようになり、現在[いつ?]でも分布域を広げつつある。この個体群はロシア・ノルウェー両国で漁業資源として利用されているが、天敵がいない環境で爆発的繁殖を遂げ、外来種として既存の生態系を脅かす存在ともなっている[21]。
4月から6月に浅場で産卵し、成体は水深30- 350m程度の砂泥底に生息するが、若い個体は浅海にも生息する。水温の低い高緯度海域ほど浅い場所に生息する。オス・メス共に孵化後、4年程度で成熟した後に繁殖を行い、15年程度生存する。メス1匹あたりの孵化数は、高齢個体ほど多いと考えられる。種苗稚ガニ生産用に育成した個体では、16,000粒から80,000粒程度を抱卵した。
日本人との関わり
漁獲
日本における主な漁場はオホーツク海で、沖合底引き網や刺し網で漁獲され、かつては蟹工船があり、漁獲したものを海上で缶詰にまで加工していた。かつては、マダラの延縄漁でも混獲されていた。近年[いつ?]、乱獲によって生息数が減少している。
日本では「タラバ」蟹類採捕取締規則(昭和8年農林省令第9号)という命令により、メスの採捕が禁止されているが、販売についての規制は特になく、ロシアからの輸入品が「子持ちタラバ」として流通している。
海外におけるタラバガニの漁場はアメリカ合衆国アラスカ州のベーリング海のブリストル湾、同じくベーリング海のノートンサウンドという名の入り江やカムチャッカ半島近海などが有名である。
その中でもアメリカ産(アラスカ産)が非常に人気があり日本にも毎年輸入されている。
日本への輸入業者としてはアメリカ最大の水産会社であるトライデントシーフードやニッスイが代表的である。
流通・食用
塩茹でや蒸し蟹として流通することが多く、缶詰(身に含まれる硫黄が缶の鉄と化合して黒く変色するのを防ぐために身を硫酸紙で包む場合もある)にも加工される、いずれもそのまま食べる以外にも様々な料理の材料として、使われる。日本では半透明の生身を刺身で賞味することもあるが、加熱したものより繊維質が強靭で、旨みも薄い。ヤドカリの仲間であることから、ケガニやズワイガニとは違い、カニミソは油分・水分が多く生臭さがあり、通常は食用にされない。
アブラガニとの混同
アブラガニはタラバガニとよく似ており、しばしば混同されることもあるが、アブラガニを「タラバガニ」と表示して販売することは、日本では禁止されている。
2004年に「タラバガニ」の原材料偽装(実際はアブラガニ[22])が日本で問題となった[23]。アブラガニは従来北海道ではタラバガニと明確に別の種類として扱われていたが、後に価格も上昇しタラバガニの代用魚として利用されるようになった[24]。
2004年3月21日の毎日放送系ローカル『Voice』、同年4月25日のTBS系『報道特集』にて、偽装販売問題が放映され、北海道札幌市の二条市場への取材により、一部の店舗で偽装を認めたコメントが放映された。
2004年、公正取引委員会の調査により、4月27日付そごう広島店の「初夏の北海道物産展」の折り込みチラシに、アブラガニをタラバガニであるかのように表示していたが,実際にはアブラガニであった事実等が認められ、6月30日、景品表示法の規定に基づき、株式会社そごうほか3社に排除命令を行った[25][26]。これらの一連の報道をきっかけに、アブラガニの存在が広く知られるところとなった。[要出典]
また、アブラガニのほかにもイバラガニ(学名:Lithodes turritus)など多くの近縁種を抱えているので、こちらも偽装に使われるのではないかと指摘する関係者も存在する。[要出典]
文学
本来は、タラバガニの漁期は春から夏の間であるが[8]、「タラバガニ」は冬の季語になっている[1][8]。日本では小林多喜二の『蟹工船』でも知られる[8]。
脚注
注釈
出典
- ^ a b c d e f g 小学館、『日本国語大辞典』「たらばがに」。JapanKnowledgeにて確認(2020年11月8日)。
- ^ a b c d e 公益社団法人日本水産資源保護協会、『わが国の水産業 かに』、「種類と分布」および「代表種」 (PDF) 、2020年11月8日閲覧。
- ^ 農林水産省、農林水産物輸出入情報(令和2年1月分) (PDF) 、2020年11月8日閲覧。
- ^ a b c d e f g 小学館、『日本大百科全書:ニッポニカ』、武田正倫・笹川康雄・三浦汀介、「タラバガニ」、JapanKnowledgeにて確認(2020年11月8日)。
- ^ a b c 倉上政幹・著、『水産動植物精義』、杉山書店、1925年。pp.293-299「たらばがに」。(国立国会図書館デジタルコレクション)コマ番号163-166
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- ^ 出典 : NHK 地球ドラマチック 「増殖中!タラバガニ 生態系を壊す!海底の王者」2014年10月11日放送分
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- ^ 北海道立総合研究機構 佐々木潤ランチタイムセミナー > 第45回 代用魚
- ^ 東京魚市場卸協同組合おさかな普及センター資料館 さかなの知識あれこれれ No.32 2006年
- ^ “タラバガニはアブラガニ!?そごうなどに排除命令”. (2004年6月30日). オリジナルの2004年7月1日時点におけるアーカイブ。 2019年4月27日閲覧。
- ^ “機能性表示「解禁」と「規制」 暗転する新市場② 大詰め迎えた調査”. (2017年8月24日) 2019年4月27日閲覧。
参考文献
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- 三宅貞祥『原色日本大型甲殻類図鑑』 〈1〉、保育社、1982年8月。ISBN 978-4-5863-0062-4。
- 内田亨監修『学生版 日本動物図鑑』(学生版(第2版))北隆館、1990年12月。ISBN 978-4-8326-0042-3。
- “タラバガニ類種苗生産技術の確立 - 水産研究所”. 根室市役所(公式ウェブサイト). 根室市. 2010年4月14日閲覧。
関連項目
外部リンク
- タラバガニ (PDF) - 水産総合研究センター
- 網走のおさかな図鑑 タラバガニ - 網走市